「選択的夫婦別姓を党の公約にしますか?」自民党総裁候補者アンケート結果

2021年9月27日現在、自民党の総裁選が注目の的になっています。

選択的夫婦別姓・全国陳情アクションでは、候補者4名に選択的夫婦別姓制度に関するアンケートをお送りし、各候補者の回答について、衛藤幹子・法政大学法学部政治学科名誉教授(政治学博士)のコメントをいただきました。選択的夫婦別姓・全国陳情アクション事務局長の井田奈穂もコメントしております。

  1. 各候補の回答全文(回答順)
    1. 野田聖子議員
      1. 問1:総裁になられたら、選択的夫婦別姓の法制化を衆議院選挙の自民党公約に掲げますか?
      2. 問2:総裁になられたら、選択的夫婦別姓の法制化を推進しますか?
      3. 問3:制度化を求める当事者から生の声を聞く勉強会を設けるご意向はありますか?
      4. 問4:選択的夫婦別姓について、党議拘束を外し、国民に開かられた場で議論すべきだとお考えはありますか?
      5. 問5:選択的夫婦別姓についてのご自身のお考えをお聞かせください
      6. コメント
    2. 高市早苗議員
      1. 問1:総裁になられたら、選択的夫婦別姓の法制化を衆議院選挙の自民党公約に掲げますか?
      2. 問2:総裁になられたら、選択的夫婦別姓の法制化を推進しますか?
      3. 問3:制度化を求める当事者から生の声を聞く勉強会を設けるご意向はありますか?
      4. 問4:選択的夫婦別姓について、党議拘束を外し、国民に開かられた場で議論すべきだとお考えはありますか?
      5. 問5:選択的夫婦別姓についてのご自身のお考えをお聞かせください
      6. コメント
    3. 河野太郎議員
      1. 問1:総裁になられたら、選択的夫婦別姓の法制化を衆議院選挙の自民党公約に掲げますか?
      2. 問2:総裁になられたら、選択的夫婦別姓の法制化を推進しますか?
      3. 問3:制度化を求める当事者から生の声を聞く勉強会を設けるご意向はありますか?
      4. 問4:選択的夫婦別姓について、党議拘束を外し、国民に開かられた場で議論すべきだとお考えはありますか?
      5. 問5:選択的夫婦別姓についてのご自身のお考えをお聞かせください
      6. コメント
    4. 岸田文雄議員
      1. 問1:総裁になられたら、選択的夫婦別姓の法制化を衆議院選挙の自民党公約に掲げますか?
      2. 問2:総裁になられたら、選択的夫婦別姓の法制化を推進しますか?
      3. 問3:制度化を求める当事者から生の声を聞く勉強会を設けるご意向はありますか?
      4. 問4:選択的夫婦別姓について、党議拘束を外し、国民に開かられた場で議論すべきだとお考えはありますか?
      5. 問5:選択的夫婦別姓についてのご自身のお考えをお聞かせください
      6. コメント
  2. 総括
    1. 衛藤 幹子 法政大学法学部政治学科教授 より

各候補の回答全文(回答順)

野田聖子議員

問1:総裁になられたら、選択的夫婦別姓の法制化を衆議院選挙の自民党公約に掲げますか?

はい

問2:総裁になられたら、選択的夫婦別姓の法制化を推進しますか?

はい

問3:制度化を求める当事者から生の声を聞く勉強会を設けるご意向はありますか?

はい

問4:選択的夫婦別姓について、党議拘束を外し、国民に開かられた場で議論すべきだとお考えはありますか?

はい

問5:選択的夫婦別姓についてのご自身のお考えをお聞かせください

近年の女性活躍推進に伴い、働く女性の不自由さが増大しています。また、女性だけでなく、一人っ子同士の結婚で失われる氏の継承に関する問題もあり、特に若い世代では選択的夫婦別姓を容認する人が増えてきています。これからの社会を生きる若い世代の声をしっかり聞き、個々の生き方を尊重できる多様性社会の実現に向けて取り組んでいきたいと考えています。

コメント

期待通りでした。これまで主張されてきたことを忖度なしにご回答されている点も高評価です。(衛藤名誉教授)

自民党「選択的夫婦別氏制度を早期実現する議員連盟」の顧問であり、現在自民党幹事長代行でいらっしゃる野田聖子議員が一貫して賛成、推進を貫いておられる姿勢が心強いです。実際にお会いした時も、その裏表のない言行一致の姿勢が頼もしく、今回の総裁選で掲げられた「小さきもの弱きものを奮い立たせる社会を」という政治姿勢につながっているのだと感じます。

9月26日の自民党オープンタウンミーティングでも「20歳ぐらいからゲイの友人と仲良くしてきた。同性婚には賛成。選択的夫婦別姓についても若い人たちの結婚のチャンスを広げる意味で取り組みたい。多様な日本の中で色んな人の知恵考え方が原動力になる、息苦しくない日本を作っていきたい」と答えられていました。

人口減少問題を考える上でも、2020年10月28日の代表質問で描かれたジェンダー平等に向けた施策が実現するよう、当事者として声を届けていきたいと考えております。

高市早苗議員

問1:総裁になられたら、選択的夫婦別姓の法制化を衆議院選挙の自民党公約に掲げますか?

いいえ

問2:総裁になられたら、選択的夫婦別姓の法制化を推進しますか?

推進しない

問3:制度化を求める当事者から生の声を聞く勉強会を設けるご意向はありますか?

どちらともいえない
※ご指摘のような勉強会は既に党内に存在していると承知。

問4:選択的夫婦別姓について、党議拘束を外し、国民に開かられた場で議論すべきだとお考えはありますか?

どちらともいえない
※党議拘束外す≠国民に開かれた場での議論

問5:選択的夫婦別姓についてのご自身のお考えをお聞かせください

自民党はこれまで、婚姻に伴う改氏による不具合や不便を解消するために、通称使用の拡大を選挙の公約として掲げてきました。私が総務大臣時代、所掌の法律全てを精査させて頂き、住民票の旧氏併記など、婚姻前の氏の通称使用拡大に取り組んでまいりました。これからも、自民党が公約として掲げてきたことを着実に前に進めていきたいと考えております。
現在唯一国会に提出されている選択的夫婦別姓法案では、子の氏を決める際に夫婦で合意できなければ、家庭裁判所の審判によって決まることとなっております。子どもの氏の安定性が損なわれるようなことがあってはなりません。
私は、「婚姻前の氏の通称使用に関する法律案」を作成し、自民党法務部会に提出しております。全ての人が暮らしやすい社会になるように、引き続き、旧氏の通称使用拡大に取り組んでまいります。

コメント

選択的夫婦別姓は、単に呼び名ではなく、一人の人間としての人格に深く関わる問題です。高市候補は通称使用を充実することで済むとの立場ですが、本名(戸籍名)と旧姓とを使い分けることは、不便さもさることながら、それ以上に過去から築き上げてきた自分という存在が否定されてしまう、人間の存在基盤の揺らぎの問題なのです。この点が理解できないのは、何よりも人間を理解し、あらゆる人の人格を尊重すべき立場にある政治家とししては余りにお粗末ではないでしょうか。(衛藤名誉教授)

「すべての人が暮らしやすい社会」とは、本名を変えたくないのに「旧」姓にさせられ、人権を毀損される社会でしょうか?お互いに尊重しあって結婚したいカップルが破談したり、不本意な事実婚で不安を抱える社会でしょうか?

選択的夫婦別姓の国々で、子どもの名付け係争が社会問題化している国はありません。「万が一もめた場合」に備えて各国があらかじめ名付けルールを設けていますが(新注釈民法(17)親族(1)有斐閣)、実際の係争はごく稀です。何より「子の名付けは従来どおりを踏襲」とした法制審議会答申案(1996年)の国会への上程を阻み続け、公明党案(2001年)を審議未了で廃案にしておきながら、まるで野党案しか存在しないように表現する不誠実さが際立ちます。この姿勢は法制審議会で5年にわたり審議した法学者らの抗議を受けています。

旧姓の通称使用/併記では、多額の税金をかけて実際にトラブルが起こっています。高市議員が現在の窮状を訴える当事者の声を水面下で国会に届けさせないよう懸命に画策してこられた経緯は、この記事でも解説しましたが、未だ公開質問状へのお答えもいただいておりません。

国会議員であるなら、まず困りごとを抱える国民の声を真摯に聞いて、解決をはかるべきではないでしょうか。同氏同戸籍に固執するあまりに、かえって事実婚の不安を抱える「戸籍に載らない家族」が増え、親の離婚再婚で「子どもの姓の安定性」が損なわれ、子の望まない改姓を避けようとすれば個人戸籍化が進む現状も直視していただきたいものです(事務局長・井田)。

河野太郎議員

問1:総裁になられたら、選択的夫婦別姓の法制化を衆議院選挙の自民党公約に掲げますか?

いずれも選択しない

総裁となったからといって、丁寧な議論を経ずに一つの意見に集約すべきではないと考える。

一人の政治家としては、選択的夫婦別姓に賛成する。

問2:総裁になられたら、選択的夫婦別姓の法制化を推進しますか?

いずれも選択しない
上記と同様の考え方であり、どちらともいえないが、一人の政治家としては、賛成する。

問3:制度化を求める当事者から生の声を聞く勉強会を設けるご意向はありますか?

いずれも選択しない
本件に関わらず、あらゆる政策において、制度化等においては、当事者の声を伺い、対話をすることは必要なことと認識している。

問4:選択的夫婦別姓について、党議拘束を外し、国民に開かられた場で議論すべきだとお考えはありますか?

いずれも選択しない
国会は国民に開かれた場である。党議拘束のあり方については、党内や国会における議論を進めるプロセスを通じて、判断していくことになるのではないか。

問5:選択的夫婦別姓についてのご自身のお考えをお聞かせください

上述のとおり、選択的夫婦別姓については、一人の政治家として賛成している。
当事者の声の発信も含めて、引き続き、活発な活動をお願いしたい。

コメント

個人的には賛成だが、党内での議論をすべきこととして回答を避けていますが、得票を念頭に置いた計算高さに、正直がっかりしました。一人の政治家として賛成であるならば、総裁としてそれを推進すべきではないでしょうか。党内の意見次第というのでは、政治家としての信念を疑ってしまいます。推進することを前提に党内で粘り強く議論を重ねるというのが真のリーダーだと思います、もっとも、賛成とはいえ、河野候補にとって、この問題はどうでも良い、優先順位の低い問題なのかもしれません。(衛藤名誉教授)

2001年より選択的夫婦別姓に賛成を公表し、自民党「選択的夫婦別氏制度を早期実現する議員連盟」の顧問を務められている河野太郎議員。回答を避けられたのは残念ですが、総裁選が第一回目の投票で決まらず、決選投票になった場合、安倍・高市支持派を含めた国会議員票を幅広く獲得するために“表現の配慮”をしておられると推察します。

国際社会で自分の氏名を名乗れない問題に外務大臣として対応された経緯もありますが、外務省の報告では相変わらず旧姓併記パスポートでのトラブル事例が指摘されています。日本人の海外渡航においてICAOの規格から逸脱したパスポート問題を長引かせれば、それだけ日本の国際的信用度が低下します。

脱ハンコで電子署名になった途端、あるいは持株会や学会、NPOの理事になった途端に戸籍姓を名乗るよう強要されて仕事に支障をきたす当事者もおり、規制改革の文脈でも法改正が必要とされています。総裁になった暁には、「リーダーシップで決める」姿勢を見せていただくこと期待します。(事務局長・井田)

岸田文雄議員

問1:総裁になられたら、選択的夫婦別姓の法制化を衆議院選挙の自民党公約に掲げますか?

いいえ

問2:総裁になられたら、選択的夫婦別姓の法制化を推進しますか?

回答なし
党内での議論、国民の理解を踏まえて検討

問3:制度化を求める当事者から生の声を聞く勉強会を設けるご意向はありますか?

ある

問4:選択的夫婦別姓について、党議拘束を外し、国民に開かられた場で議論すべきだとお考えはありますか?

どちらともいえない

問5:選択的夫婦別姓についてのご自身のお考えをお聞かせください

女性の社会進出や核家族化が進む中で、多様性を重んじ、男性も女性も互いに尊重しあう社会を目指す上で、選択的夫婦別姓の議論は大切な論点である。他方で、家族観という社会の根幹にかかわる問題でもあるため、深い議論が必要である。特に、夫婦が別姓となった場合、その子どもはどちらの姓を名乗るのか、またその判断は「誰が」、「いつ」するのかなど、具体案をもって検討を行うとともに、国民的な合意形成を図る必要がある。

コメント

河野候補と同じく、票を意識して、はっきりしない態度です。選択的夫婦別姓は日本の女性活躍とジェンダー平等を推進するための肝です。総裁としては、反対者を説得し、合意を作り上げて、前に進めるのが筋ではないでしょうか。(衛藤名誉教授)

河野太郎議員、野田聖子議員同様に、自民党「選択的夫婦別氏制度を早期実現する議員連盟」の顧問を務めておられる岸田文雄議員。2019年6月20日には、自民党本部にて選択的夫婦別姓訴訟弁護団とともに岸田文雄議員とご面談いただいた際、政調会での議論を約束してくださいました。地元・広島事務所にも当事者たちが何度も足を運び、秘書様にもご説明差し上げているので、「子どもはどちらの姓を名乗るのか、またその判断は誰が、いつするのか」はすでに答申案含め、ご存知であると思われます。

言うまでもないことですが、今現在も、子の氏名を決めるのは親です。日本人同士の場合、今現在もどちらか片方の親の名字しか受け継いでいません。無数にある候補の中から下の名前も話し合って決めています。法改正後も、親が話し合って14日以内に出生届を出す形式は全く変わりません。

「家族のあり方の根幹に関わる問題」「議論が必要」は、長年当事者が立法府の議員に突きつけられてきた暖簾に腕押しキーワードです。若い世代に要望の多い選択肢を認めずに「こう名乗れ、こう生きろ、この家族の形しか認めない」と強制される国で、明るい未来が描けるでしょうか。リーダーシップによる早期解決を望みます。(事務局長・井田)

総括

衛藤 幹子 法政大学法学部政治学科教授 より

20代から30代の若者のうち、男性では70%、女性は80%が選択的夫婦別姓に賛成しています。自民党がこうした若い世代の声を無視し続けるのであれば、遅かれ早かれ選挙でしっぺ返しを食うことでしょう。また、この問題はジェンダー平等のキーポイントです。別姓を認めないことは、「女性活躍」だとして女性に働けと発破をかける一方で、家庭では伝統的な妻や母の役割を押し付けるという、女性を馬鹿にしたメッセージです。

衛藤 幹子 法政大学法学部政治学科名誉教授

政治学博士(スットクホルム大学政治学部より学位取得)。法政大学名誉教授(2021年4月〜)。専門はジェンダー政治学で、女性の議会進出、クオータ制度、市民社会と民主主義などの研究に取り組み、最近の主著にWomen and Political Inequality in Japan: Gender-Imbalanced Democracy (2021, Routledge)、『政治学の批判的構想-ジェンダーからの接近』(2017年、法政大学出版局)がある。

個人サイト:gender-in-japanese-politics