なぜ選択的夫婦別姓制度が必要なの? 〜旧姓の通称使用で困ってます〜

結婚して名字が変わっても、社会生活において旧姓を通称として使用する「旧姓使用(通称使用)」

職場での呼称に加え、名刺やメールアドレス、電話帳などを旧姓のままにして働く人が増えています。著名人や政治家などの様々な職業の方々も、旧姓を名乗り活動される方が昨今さらに増えてきました

その中でも弁護士・公認会計士といった一部の国家資格では、旧姓使用に関する規定が存在し、届出をすることにより旧姓で業務を行うことができます。また、規定はなくとも免許の書き換えが義務付けられておらず、事実上旧姓を使用できる国家資格も多くあります。

※1 2017年には、旧姓使用が認められていなかった裁判官の旧姓使用が認められ、旧姓を使用している最高裁判官もいます。さらに、2019年11月から住民票・マイナンバーカード、12月から運転免許証の氏名に旧姓が併記できる「旧姓併記」も始まりました。
※2「望んで改姓し夫婦同姓にしたけど、その上で旧姓を使いたい!事務手続を少しでも簡単にしてほしい!」という人にとっては良い施策といえます。

こういった状況に対し、

「旧姓使用で十分なのでは?さらにコストをかけて、わざわざ選択的夫婦別姓制度を導入する必要、ある?

という意見があります。

しかし旧姓使用では十分とは言えません。
法的根拠の無い旧姓使用には不都合も多く、「選択的夫婦別姓制度」が無いことで困っている人がたくさんいます。

■旧姓使用ができない場面が多い!

社会保険、健康保険、年金、銀行口座、給与振込、確定申告・・・といった場面では、原則として旧姓使用ができません(一部例外あり)。

それは身分証明書に旧姓を併記できるようになっても変わりません。

総務省が作成したポスターでも、住民票・マイナンバーカードの旧姓併記について「保険・携帯電話の契約や銀行口座が旧姓のまま引き続き使えます!」という文言を、「各種の契約や銀行口座の名義に旧姓が使われる場面で、その証明に使えますに差し替えています

旧姓使用ができない場面が多いということは、従業員に旧姓使用を認めている企業等は、戸籍姓と旧姓を使い分けて管理するということです。これにより人事関連や労務の管理等が煩雑となり、負担がかかります

2017年に内閣府男女共同参画局が発表した調査では、「旧姓使用を認めている」企業は45.7%。「条件付きで認めている」を含めても49.2%で半分に満たない状況です。(図1)ちなみに、上場企業を中心とした調査によると旧姓使用の実施率は67.5%です。(2018年 一般財団法人労務行政研究所による調査)

旧姓使用の調査結果_企業(円グラフ)

図1 内閣府 男女共同参画局が発表した調査による旧姓使用を認めている企業の割合※3

皆さんはどう感じましたか?
旧姓が使えるかどうかは「職場次第」のところもあるようですね。

もし今の職場が旧姓使用できているとしても、例えば転職したいと思ったとき、さきほどの数字を踏まえると、次の職場では旧姓が使えない可能性があります。

「キャリアを積んでから結婚・改姓⇒キャリア継続」という人はもちろん、「結婚・改姓後旧姓を使って学び直したい!再就職したい!」という人も増えていますが、そういった人にとっては旧姓を使い続けられる状況がまだ多くは存在しないといえそうです。

また、仕事を辞めてしまうと旧姓が使える場所はさらに少なくなります。病院、役所などで呼ばれるのは通常戸籍姓なので、「改姓はしたくなかったけど、やむなく旧姓を通称使用している」人にとっては苦痛を覚えてしまう場面も多いかもしれません。

■使い分けによる混乱・トラブルが多発!戸籍姓・旧姓併用コストも・・

論文を執筆する研究者や医療関係職などは、改姓してしまうと改姓前の論文や実績と紐づけが出来ず、キャリアが絶たれてしまいます。
(研究者向けIDによって、業績情報を管理する仕組みもありますが、論文とそれらのIDを紐づけることは普及しておらず、解決方法とはなっていません)

そのため旧姓で論文を執筆することも広がっていますが、学位論文など旧姓が不可となるケースもあります。また、特許出願についても旧姓が認められていません。

さらに問題となるのが国際学会などで海外に渡ったときです。論文を執筆した姓と、パスポートの姓が異なることで同一人物なのか疑いを持たれ、都度説明の手間が発生してしまいます。また、2つの姓を使用することが一般的ではない海外においては、入国審査でもリスクが伴います。(これはパスポートに旧姓を併記したとしても同じことが起こり、解決には至りません。)※4

さらに経営者にとっても、改姓は影響大
身分証明書、銀行口座やクレジットカード等、一般の名義変更に加えて、「商業登記」や「法人口座」の名義変更が発生します。「名前がブランド」ともいえるため、多くの経営者が旧姓使用をされていますが、スピード感が求められる中で「この契約は戸籍姓?旧姓?」という確認作業により、無駄な時間・コストが発生しています。
また、商業登記簿に旧姓を掲載する場合、戸籍姓も必ず併記しなければならないため、婚姻情報が公開されることでプライバシー侵害にも繋がります

いくつか代表的な例をご紹介しましたが、このように現状の旧姓の通称使用では解決できないことも多いため、混乱・苦痛を招いています。

⇒まだまだあります 通称使用で困ったこと。事例集は文末にリンクあり。

「わかるわかる!」と共感いただけた方、
「自分は大変だと思ったことは無かった」
「オンオフが切り替えられるから今の通称使用に満足している」

という方、様々だと思います。

でも、その中に「こういったことで困っている人がいるなんて知らなかった!」という方が少しでもいればすごくありがたいです

※1 男女共同参画局「各種国家資格における旧姓使用の状況について」
http://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/jyuuten_houshin/sidai/pdf/jyu09-1-1.pdf
※2 総務省HP「住民票、マイナンバーカード等への旧氏の併記について」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/daityo/kyuuji.html
※3 男女共同参画局HP「旧姓使用の現状と課題に関する調査報告書」
http://www.gender.go.jp/research/kenkyu/maidenname_h28_research.html
※4 改姓した研究者(当アクションメンバー)のインタビュー記事
https://joshi-spa.jp/912688
※4 改姓した経営者(当アクションメンバー)のインタビュー記事
https://www.bengo4.com/c_23/n_9904/
※5 ㈱サイボウズ 青野社長(上場会社の社長であり、2001年に結婚改姓)訴訟サイト
https://sentakuteki.qloba.com/
通称使用で困ったこと事例集
https://besseiouendan.org/othersurname/cases/

構成担当:N+S

投稿担当:Y