「個人の尊厳のためにも早期の法改正を」平成8年法制審で幹事を務めた小池信行氏が語る、答申の経緯と提言

法務省は平成8(1996)年に既に選択的夫婦別氏制度導入を答申しました。しかし法改正に至らないまま異常事態が続いています。答申案の経緯を知る法務省担当者や議員は年々減っていき、社会事情も24年前とは大きく変化しました。そこで2020年2月14日の超党派有志勉強会では、法制審の要綱策定の幹事を務められた小池信行弁護士に、当時の答申案策定の経緯を踏まえ、2020年現在にふさわしい法改正のあり方を提言いただきました。

日本の民法史に残る大変貴重な証言、ぜひ最後までご覧ください。

平成8年法制審議会民法改正要綱の内容とその作成経緯 (2020年2月14日超党派有志勉強会での基調講演)

小池信行弁護士(元法務省⺠事局参事官/のちに法務省大臣官房審議官、東京高裁判事)

民法改正要綱のうち宙に浮いているのは選択的夫婦別姓だけ 〜平成8年法制審議会の民法改正要綱と私の立場〜

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本日は、法務大臣の諮問機関である法制審議会が平成8年1月に作成して公表した民法改正要綱の内容及びその作成経緯についてご説明するために、ここに登壇させていただいております。このような機会を与えていただき、ありがとうございます。

この要綱は、正確に言いますと、民法のうち婚姻・離婚法制に関して抜本的な改正を目指したもので、その内容には極めて重要なテーマが沢山盛りこまれています。例えば、姻年齢の男女平等化、女性の待婚期間の短縮、選択的夫婦別氏制度の採用、離婚の際の財産分与のルールの明確化、裁判上の離婚原因の拡張(長期別居は独立の離婚理由とする)、嫡出でない子の相続分の平等化などです。

ちなみに申し上げますと、ここで取り上げられているテーマのほとんどは、既に立法の手当てがされ、又はその見通しが立っているか、現実に実務に定着したセオリーになっておりまして、いまだに宙に浮いているのは選択的夫婦別氏制だけです。

私は、平成8年1月当時は、法務省民事局に勤務し、参事官という課長相当職のポストにありました。併せて、法制審議会の幹事を命じられて、上記の要綱作成作業の事務局を務めておりました。

女性の権利向上を目指した全世界的な動きの中で 〜要綱作成の契機〜

この要綱は、法務省の独自の発案によって作成されたものではなく1970年(昭和50年)に始まった国連の主導によるものです。国連は、加盟各国において女性の地位向上のための様々な施策・制度を採るべきであるとの観点から、1975年を「国際婦人年」とすることを提唱し、さらにこの年から続く10年「国連婦人の10年」と銘打って、全世界的な規模で女性の地位向上運動を開始しました。その流れの一一環で1979年の国連総会では女子差別撤廃条約が締結されました。

国連の方針を受けて、わが国でも、1975年に、当時の総理府に「婦人問題企画推進本部」が設置されました。現在の男女共同参画推進本部の前身でありまして、本部長は総理大臣、副本部長が内閣官房長官、関係省庁の事務次官を委員とするという構成です。この推進本部が、1977年(昭和52年)に女性の地位向上のための「国内行動計画」を策定しました。

以後、この計画に基づいてさまざまな施策が実行されていったのですが、1991年(平成3)年にこの国内行動計画が改訂された際に、「地域社会及び家庭生活における男女共同参画促進」のための具体的政策として、「夫婦の氏や待婚期間の在り方等を含む婚姻及び離婚に関する法制について、男女平等の見地からの見直すこと」という課題が新たに設定されました。そして、法務省がこれを担当することとされたのです。

各界への意見の大多数は「夫婦が婚姻前の氏を称して婚姻できる制度を導入すべき」
〜審議会における検討の経過-審議及びパブリックコメント〜

これを受けて、法務大臣の諮問機関である法制審議会が1991年(平成3年)初頭から審議を開始し、約5年の期間をかけて1996年(平成8年)1月に民法改正要綱を作成し、法務大臣に答申したのです。

この5年の審議期間に、3回にわたり、関係各界の意見を聞いております。関係各界とは、裁判所、弁護士会、大学及び研究者、婦人団体、消費者団体、経営者団体、労働団体等です。婚姻・離婚という法制度は、国民にとっても関心の深い分野ですので、一般の国民の皆様からも、投書によって多数の意見が寄せられました。

3回の意見聴取といいますのは、具体的に申しますと、1回目が1992年(平成4年)12月に、法制審議会のそれまでの審議で浮かび上がってきた現行の婚姻・離婚制度の問題点を網羅的に挙げて、このような問題認識が正しいかどうかについて意見を聴きました。

2回目は、1994年(平成6年)7月で、このときは、制度改正の案を提示して、その是非を伺いました。選択的夫婦別氏制度に関しては様々な類型が考えられたため、一つの案に絞りきれず、複数の案を示しています。

3回目は、1995年(平成)7年9月で、この時点では法制審議会としての意見がほぼ固まった段階で、最終案に近いものをお示しして、いわば確認的に意見を聴いたものです。

3回にわたって聴取した各界の意見は、それぞれのテーマごとにバラエティに富んでおり、法制審議会の審議に大いに参考になるものでした。このうち、選択的夫婦別氏制の採用というテーマに関しては、大多数の意見は、何らかの形で、夫婦が婚姻前の氏を称して婚姻することができる制度を導入すべきであるというものでした。その骨格となる理由は、氏は、人が個人として尊重される基礎であり、個人の人格権の一部であるから、婚姻によってこれを改めなければならないとすることは人格権の侵害につながるというものです。このほかの理由としては、憲法が保障する個人の尊厳・個人の幸福追求権が尊重されなければならないとか、婚姻によって氏を変更しなければならない人の経済的・精神的損害には無視できないものがある等の理由が有力でした。

法制審議会答申

▲戸籍・住民基本台帳実務家のための機関誌「戸籍」(平成8年2第642号)より

一方で、少数ながら、選択的夫婦別氏制の採用に反対する意見もありました。その根幹となる理由は、夫婦同氏制は明治以来の我が国の伝統であり、我が国社会に定着し、夫婦・親子の一体感を確保する上で、重要な役割を果たしているというものです。これに加えて、氏は、個人の呼称というだけでなく、家族の呼び名としての機能をもっているのだから、それを捨て去るのは好ましくないとか、婚姻によって氏を改めた人の社会生活上の不便は通称使用を認めることによって緩和できるのではないか、などの理由も述べられていました。

「結婚後の同姓⇔別姓への転換不可、子の氏は結婚時に選択」で案が決定 〜夫婦の氏に関する要綱案の概要〜

これらの意見を踏まえて、法制審議会は夫婦の氏に関して次のような改正案を決定しました。
(1) まずは、選択的夫婦別氏制を採用するとしました。
すなわち、夫婦は、婚姻に際して、同氏夫婦となるか(すなわち、夫又は妻の氏のいずれかを共通の氏として定めるか)、それとも別氏夫婦となるか(すなわち、それぞれ婚姻前の氏を維持したまま婚姻するか)を選択することができる、としたのです。そして、婚姻の際に同氏夫婦を選んだカップルが婚姻後に別氏夫婦に転換することはできない、別紙夫婦から同氏夫婦への転換もできない、としました。
ただし、この新しい制度が導入される前に婚姻をして氏を改めた人は、新制度施行後1年以内に配偶者とともに届け出ることによって、婚姻前の氏を称することができるとしました。

(2) 別氏夫婦の子の氏
 次に、別氏夫婦の子の氏をどうするかですが、これについては、その子は、その夫婦が婚姻の際に子の氏として定めた氏を称することとしました。すなわち、別氏夫婦は、婚姻の際に、将来生まれてくる子の氏を、夫の氏とするか母の氏とするかを定めて届け出なければならない。その夫婦間に生まれた子は、その氏を称する。1番目の子だけでなく、2番目、3番目の子も同じで、別氏夫婦の子はすべて同じ氏になる、としたのです。

ただし、生まれたときに定められた子の氏は、後に変更することができることとしました。例えば、出生時に父の氏を称すると定められた子が後に母の氏に変更することができるということです。ただし、この変更は、「変更を要する特別の事情があること」と「家庭裁判所の許可を得ること」が要件とされます。この氏変更が認められれば、夫婦に複数の子がある場合、それぞれの子の氏が別々になることもあり得ることになります。

有力だった「子の氏は出生時」を退け、「現行制度に倣う」で決着した理由 〜別案の概要-夫婦別姓の形態及び子の氏について〜

夫婦別姓の形態及び子の氏の在り方については、法制審議会においても、要綱に示したもののほかに多様な意見がありました。
(1) 夫婦の氏について
 まず、夫婦の氏に関しては、先ほどお話しした夫婦の氏の転換を認めるという案も考えられました。特に、婚姻時に別氏夫婦を選択したカップルは、一定期間内(例えば婚姻後5年以内)であれば、同氏夫婦になることができるという案が有力に主張されました。これと反対のケース、すなわち婚姻時に同氏夫婦を選んだカップルが婚姻後に別氏夫婦に転換することも認めるべきであるとする意見もありましたが、これは少数でした。
結局、上記の要綱では、夫婦の婚姻時における氏の選択を重く見て、婚姻後の転換は一切認めないことにしました。

(2) 子の氏について
 別氏夫婦の子の氏は、婚姻の際に決めるのではなく、その子が生まれた際に夫婦の協議で決めるべきだとする意見は、法制審議会でも、各界からの意見聴取の中でも有力でした。婚姻時に決めるより、こちらの決め方の方が自然だというわけです。現在でも、子の名前は、多くの場合、生まれてから決めています。しかし、そうなると、別氏夫婦に複数の子がいる場合、それぞれの子の氏をバラバラに決めてもいいのか(例えば、1番目の子は父の氏を、2番目の子は母の氏を称する)、それとも、複数の子の氏は統一すべきだとするのか(つまり、別氏夫婦の子は、全員最初に生まれた子の氏を称するとする)という問題が生じます。これについても意見は分かれました。法制審議会ではバラバラ説の方が有力であったと思います。

問題は、別氏夫婦に子が生まれた時点で、その氏をどうするかについて夫婦の協議がまとまらない場合、又は協議をすることができない場合(事実上の離婚状態にあるとか、当事者の一方が意思表示できない状態にある場合)に子の氏がいつまでも決まらないということです。現在の戸籍法では、子の出生から14日以内に出生届をしなければならないとされていますから、いつまでも放置しておくわけにはいきません。そこで、夫婦の協議で決まらない場合の補充的な決定方法を定めておく必要があります。この点は各国で様々な工夫をしています。

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法制審議会の審議の中でも主に3つの考え方がありました。1つ目は、民法において夫婦の協議で子の氏が決まらないときは、「父の氏にする」とか「母の氏にする」と定めてしまう方法です(スウェーデンは、3か月以内に決まらないときは母の氏を称するとしています。)。

2つ目の方法は、家庭裁判所でどちらの氏にするか決めるというものです(ドイツでは、我が国の家庭裁判所に当たる後見裁判所が父母のいずれかを子の氏の決定者と決めるという制度を採っています。)。

3つ目がクジで決めるという方法です。公職選挙法では、国会議員の選挙において得票数が同数であるときは、選挙長のクジで決めるという規定がありますので、「クジで決める」というのも法的根拠がないわけではありません。
このように法制審議会で様々な議論があったのですが、別氏夫婦の子の氏を夫婦の婚姻時に決めるという案を採用したのは、夫婦別姓を選択的に認めるとしても、その子の氏はできるだけ現行制度に近いものにする。子の氏できるだけ影響を及ぼさないようにする方が望ましい、という配慮によるものです。現在の制度では、夫婦が婚姻の際に共通の氏を定めることによって、間接的には子の氏も決めるという制度になっていますので、これに倣おうという考え方だったのです。

自民党内での反対で閣議提出を断念 〜法案の提出ができなかった理由〜

我が国では、各省庁が所管する法律の改正案を閣議で決定する前に、与党の審査を受けることが長年の慣行になっています。法務省は、平成7年秋頃から平成8年初頭にかけて、上記の法制審議会の要綱の内容を与党である自民党の関係議員への説明を繰り返し行いましたし、同党におかれても、法務部会を多数会開催して、同要綱に盛られた改正事項についての審議が重ねられたのですが、特に選択的夫婦別氏制の導入に対する反対意見が強く、結局、法務部会での了承を得ることができませんでした。このため、法務省は、平成8年3月頃、民法改正法案の閣議提出を断念したのです。

法制審答申19960227読売新聞(PDFダウンロード)

▲法制審議会の答申があったことを伝える当時の新聞報道

夫婦同姓の制度になったのは、実は戦後から 〜別氏夫婦とその子の戸籍〜

選択的夫婦別姓が採用された場合の戸籍の在り方については、法制審議会ではなく、同じく法務大臣の諮問機関である民事行政審議会において審議され、答申がされています。

(1)現行の戸籍制度一「家」制度の下での戸籍の名残り
まず、現在の戸籍制度についてお話しする前に、戦前の「家」制度の下での戸籍について一言しておきますと、ここでは、1つの「家」を単位として戸籍を編製することとされていました。その家の呼称が氏です。つまり、この時代の氏は、個人の呼び名である前に、「家」の呼称であって、ある家に属する者はその家の氏を称することとされていました。夫婦についても、夫婦だから同じ氏を称するのではなくて、同じ家に属しているから結果として同じ氏になるという構成だったのです。夫婦としての独自の氏を定めるという制度になったのは戦後からです。

戸籍の編製単位も、戦後に改められて、夫婦とその氏を同じくする子を一単位とする方式になりました。我が国の民法では、親族の範囲は6親等までとされており、相当に広いのですが、その中で、夫婦と親子の間においては、他の親族間には見られない特殊な法律関係・権利関係があります。夫婦の同居・協力・扶助義務、親の子に対する親権、夫婦・親子間相互の相続等です。このような特殊な関係にある夫婦・親子を一つの戸籍に登載して公示するというのが現行戸籍制度の考え方です。

(2)平成8年の民事行政審議会の答申内容
民事行政審議会の答申内容は、以下のとおりです。

ア まず、現行法の戸籍編製基準に加えて、夫婦及びそのいずれか一方と氏を同じくする子についても一つの戸籍を編製する、としています。緊密な親族関係にある者ごとに戸籍を編製するという実質を重んじて、「同一氏・同一戸籍」という形式的な編製基準は採用しない、としたものです。

イ 現行の「名」欄を「氏名」欄に変更して、ここに氏及び名を記載するとしています。現行の戸籍では、筆頭者欄に「山田太郎」と表示すると、その戸籍に属する全員が「山田」氏になりますから、各個人については名欄だけが設けられていて、名だけが記載され仕組みになっているのですが、これを「氏名欄」に改めて、氏と名を記載することにするというものです。

ウ 戸籍に記載する順序は、別氏夫婦の子について夫の氏を称すると決めた場合には、夫が筆頭者になって戸籍の最初に記載され、その次に妻が記載されるとしています。別氏夫婦の子は妻の氏を称すると決めた場合は、妻が筆頭者で、夫がその次に記載されることになります。
その夫婦間に生まれた子については、現行制度どおり、出生順に記載することになる、としています。

(3) 別案の場合
上記の民事行政審議会の答申とは異なり、子の氏はその出生時に定めるという制度を採った場合、戸籍の取扱いはどうなるでしょうか。

別氏夫婦は婚姻の届出をする際に、戸籍の筆頭者を夫とするか妻にするかを協議で定めなければならないということになりましょう。その協議が整わないときにどうするか。単に戸籍への記載の順番を決めるのですから、家庭裁判所で決めてもらうとするには手続が重すぎる感があります。婚姻届を提出する区役所・市役所の窓口でクジを引いて定めることにするか、あるいは、生年月日順又は「あいうえお」順とすることなどが考えられるところです。

「夫婦同姓は我が国古来の伝統」は誤り 〜法改正への期待〜

私は、既に法務省の職員ではありませんから、選択的夫婦別氏制を導入する法改正について、法律を職業としている弁護士の立場からの意見を申し上げます。
私の経験からすると、一般に、国民の皆さんに「選択的夫婦別氏制を導入することに賛成かですか、反対ですか」という質問を発すると、聞かれた方は、ご自分が夫婦は同姓であることが望ましいと考えている人だと、「反対だ」と答えることが多い。しかし、これは質問の仕方がちょっと粗雑なのです。正しくは、あなたは同姓論者かもしれないけれど、世の中には別姓で結婚したいと考えている人たちもいる。国として、そういう人たちの希望を叶える制度に改めることに賛成ですか、反対ですかと尋ねるのがわかりやすい。この問題は、このような観点から捉えることが望ましいと思います。過去の世論調査で反対論者が多かったというのは、この尋ね方の問題もあったのかもしれません。もっとも、最近の世論調査では賛成派の方が多いようですね。

もうひとつ、選択的夫婦別氏制に対して反対される論者の中には、夫婦同姓は我が国古来の伝統だと仰る方がおられます。しかし、これは正しくありません。我が国の伝統は「家制度とその構成員の氏の同一」であって、固有の意味での夫婦同姓は戦後からのものです。もっとも、その戦後からの夫婦・親子同氏制が家族の一体感を醸成するという役割を担ってきたという面はあるだろうと思います。特に、昭和30年代からの我が国の高度経済成長の下で、「夫が外で働き、妻は家庭を守る」という男女の分業が主流だった時代には、夫婦同氏制(夫婦の大多数が夫の氏を称する同氏制)に対して強い異論はみられなかったのです。

19960526人類学有志の会(PDFダウンロード)

▲人類学者60名が選択的夫婦別姓が導入されなかったことに対して出した抗議文。「「夫婦同姓こそ日本の伝統文化」とする考えは、【根拠のない偏見、大きな誤解だと文化を研究する人類学者として強く訴える】内容。

しかし、この10年~20年の間に状況は大きく変わって来ました。まず、少子高齢化・産業構造の変化等の現代的状況の中で、女性の潜在的能力の活用が強く求められるようになり、2015年に成立した女性活躍推進法によって、女性の社会進出を持続的に支援するための制度的な仕組みが構築されました。他方で、家族の形態やその構成員の意識も大きく変化していきています。

そのことは、弁護士の仕事を通じて感じるのですが、例えば、相続をめぐる紛争が増えています。相続人である親と子、さらには子同士の間で、相続分や遺産の分割方法をめぐる争いが激しくなってきています。かつては、家督相続の名残りで、事実上長男が単独相続する例が多かったのですが、今はそうはいきません。相続人が平等に相続することを主張するケースが多いのです。

それから、離婚が著しく増えています。婚姻をしたカップルの30%くらいが離婚をするといわれています。その結果、離婚に伴う親権者の指定、子の養育費、親権者とならなかった親と子との面会交流などの問題が深刻になっています。また、離婚をした人が子を伴って再婚するケースも多くなっています。そうなると、一つの家族が必ずしも血縁でつながっているわけではないことになります。

個人の尊厳、女性活躍の推進のためにも早期の法改正を 〜結びに〜

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以上のような状況の下では、婚姻によっても氏を改めないという選択を可能にすることは、女性活躍推進法が目指す方向を後押しする有力な梃子となることと思います。また、家族の内部に着目しても、家族や個人の氏をどうするかについて、法律で画一的に決めてしまうのではなく、それぞれの家族の実情や構成員の考え方に合わせて決めることができるという制度に改めるのが望ましい。つまりは、現代社会の多様性に対応できる柔軟な制度に改めるべきではないか。多数派である夫婦同姓論者の方々も、個人の尊厳・幸福追求権の尊重という見地から、この制度にご理解をいただきたいと思うのです。
外国の制度をみても、ヨーロッパ諸国でも、1970年代くらいまでは夫婦同氏制、それも制度上あるいは事実上夫の氏を称するという同氏制を採る国が多かったのです。そのほとんどの国が、20世紀中に選択的夫婦別氏制を採用しました。この20世紀の末に、わが国にもヨーロッパからの風が吹いてきたのですが(それが冒頭に述べた平成8年の法制審議会の要綱です。)、残念ながら乗ることができませんでした。いまからでも、国際社会から、日本における男女平等化の実現が遅れているとの指弾を受けることがないよう、選択的夫婦別氏制が早期に実現でされることを望んでおります。

以上

超党派勉強会集合写真

▲2020年2月14日超党派有志勉強会にて。小池弁護士は「平成8年法制審議会の民法改正要綱の内容及び作成経緯について『語り部』になることは、私の社会的使命と心得ております」と登壇を快諾くださいました。

撮影:齋藤周造

※この記事は、ご講演内容をご自身にまとめていただいた原稿を元に、編集部で当時の資料と説明文をつけ、再構成しました。