2019年3月15日の三重県議会本会議場。姫野舞花さん(仮名)が提出した請願から、当アクションとして初めて(※)、都道府県議会での意見書採択が達成されました。
産休中に請願を提出した姫野さん。赤ちゃんを抱えて議会にも立ち、自ら声を届けに来た姿が、多くの議員さんの心を動かしました。その想いと採択までの道のりをご自身に書いていただきましたので、ぜひご覧ください。
(※)かつて千葉県や岩手県で同様の意見書が採択されたことがありますが、当アクションの活動としては初めての都道府県議会採択です。
採択の瞬間は授乳しながら迎えた
3月15日、国に対して選択的夫婦別姓制度の法制化を求める意見書が三重県議会で賛成多数で採択された。
その瞬間を請願代表者である私は自宅のソファーで息子に乳をやりながらスマートフォンを握りしめ、インターネットのライブ中継(録画中継はこちら。選択的夫婦別姓の請願採択の様子は39分30秒ごろから)で見守った。
議場までは車で20分、決して遠くなく、ぎりぎりまで傍聴しに行くか迷ったが、0歳の乳飲み子が議場で長時間静かにしていられるとは到底思えなかったからだ。
そんな乳飲み子を抱えてなぜ県議会に請願を提出するに至ったかを振り返ってみたい。
2015年の合憲判決に号泣。「なぜ女性だけ」
私と夫は2015年に「1度目」の結婚をした。お互い自分の姓を変えることを望まず、話し合いをしたが平行線のまま。話し合いでは決着がつかないので私は夫にじゃんけんで公平に決めることを提案するが却下されてしまった。
「婿養子を取るの?」、「あなたには弟がいるんだからいいじゃない」、「好きな人と同じ苗字になれるのは幸せなこと」、「旦那さんが可哀想」…夫の実家や、職場の同僚や上司、友人等の世間の圧力に負け、泣く泣く私が改姓することとなった。
どんな夫婦でも夫婦はもちろん対等であるが、私たちは出身大学や学位、職、収入、その他いろいろな点で同等だった。違うのは性別だけ。
この時私は「私が男性だったらこんな事を言われないのに。女性であるというだけでどうしてこんな目に遭わないといけないのか」と、とても悔しく悲しい思いだった。
結婚後、最低限の改姓手続きだけを行い、できるだけ旧姓を残そうと試みたが、嘘をついているような後ろめたい気持ちがあった。一方で夫の名前で呼ばれることにも慣れることはなく、毎月夫の姓が書かれた給与明細を見るたび、病院で夫の姓で呼ばれるたび、自分を否定されているような気持になった。当時はまだ子どももおらず、共働きなので扶養関係もなく、特段の財産もないのだから事実婚にしておけば良かったと日に日に後悔がつのっていった。
夫婦別姓を求めて最高裁まで争われた裁判に希望を託していたが、夫婦同姓は合憲との判決。テレビの前で号泣した。最高裁で合憲とされてしまっては、この先何十年と夫婦別姓は実現しないだろうと絶望的な気持ちになった。
離婚し、妻の姓で再婚。しかし夫に姓を変えさせ「申し訳ない」
それからさらに月日は流れ、ついに夫の名前で呼ばれることに耐えられなくなった私は、夫が私の苦しみや悲しみを理解しようとしないならば夫婦関係を解消することも致し方ないという覚悟で、「旧姓に戻したい」と夫に相談した。
幸い夫は真剣に話を聞いてくれた。自分が望んでいない改姓を夫に強いることはしたくないので、私としては事実婚にし、法律婚に準じた内容で公正証書を作製することを提案したが、夫は法律婚に強くこだわった。そのため、一度離婚届を提出し、夫が私の姓に改姓する形で再度婚姻届を提出することとなった。
こうして私たちは2017年に2回目の結婚をした。そういうわけで私たちはお互いバツイチ再婚ということになった。
ちょうどこの頃、サイボウズ社長の青野さんらが新たな夫婦別枝訴訟の準備をしていることを把握していたが、地裁に提訴してから最高裁まで行き、実際の法整備がなされるまでにトントン拍子に進んだとしても相当の時間がかかるだろうと思ったので、私たちは離婚・再婚に踏み切った。
晴れて私は自分の姓を取り戻しはしたが、今度は夫が望まない改姓をすることになった。
私の姓が書かれた夫の名前を見る度に申し訳ない気持ちが沸いてくる。また、婚姻により男性が改姓するのはわずか3~4%と少数派であるため好奇の目に晒され、女性が改姓する以上に困難が伴うこととなり、夫が了承の上で改姓したとはいえ、申し訳なく思う気持ちが募っていった。
「何もせず傍観するより、できることをしたい」
このような経緯から、自分の姓を取り戻した後も夫婦別姓問題には関心を持って情報収集をしていたところ、2018年の年末頃、選択的夫婦別姓制度の法制化を求めて各地の地方議会に陳情・請願を提出する「全国陳情アクション」なるものがあることを知った。
迷ったがエイやっ!とクリックして登録してみた。その後は事務局から速攻で連絡をいただき、そのパワーに引っ張られ、気が付いたら県議会に請願を出していた。
青野さんらの裁判はメディアにも度々取り上げられるようになっており、私が何もせず傍観していても、この裁判は勝てるんじゃないか、と感じていた。しかし、夫婦別姓が選べないために悔しく悲しい思いをたくさんし、夫婦関係は良好にも関わらずバツイチ再婚となってしまった私も何か出来ることをしたい、夫婦別姓制度を実現するために私も貢献したんだと胸を張って言いたい、息子の時代に姓のことで悩むようなことは無くしたい、と思い、全国陳情アクションに登録した。
また、育児休業中で乳飲み子の世話があるとはいえ、仕事をしている時に比べれば時間はたっぷりあることも私の背中を押した。
さらに、三重県議会は他県では見られない先進的な制度等を採択してきた実績があり、「いける!」と直感的に感じていたことと、市議会よりも県議会で採択される方がよりインパクトが強いだろうと思い、県議会への請願に力を入れることにした。
赤ちゃん連れで議会へ。6つの会派に広がった賛成の輪
最初に相談に伺ったのは地元の女性議員。なんと彼女は議員になる以前から夫婦別姓制度を求めて活動していたとのことで、私から選択的夫婦別姓制度の必要性等の話は全くする必要がなく、「どうしたら議会で採択されるか」という点についてご指南いただいた。請願の採択は多数決で決まり、会派内および連携できる他会派の調整はしていただけるとのありがたいお言葉をいただいた。
それ以外に、○○党の先生が賛成してくださるならば多数決で採択出来るとのことだったので、私から○○党の議員に連絡を試みた。
○○党は党の方針として選択的夫婦別姓制度に賛成しており、県議会への請願について協力して頂けるとの返事を得た。さらに、保守系議員へも根回しをしてくださるとの心強いお言葉をいただいた。幸運なことに議員1名に面会し、もう1名に電話をしたこの時点で、採択される見通しがたった。
とはいえ、なるべく多くの賛成を得るため、他会派の議員にも連絡を試みた。請願の提出期限が迫っており、また選挙前でご多忙な時期のため全ての会派の議員とお話しすることは叶わなかったが、相談に乗り、応援の言葉を掛けてくださる議員さんもあり、心強く思った。また多忙な時期にも関わらず、「選挙は言い訳になりません。これこそ本当の仕事です」と言ってくださる議員には感激した。
請願提出期限の1週間前には、各会派の政策担当者が集まる場で請願提出予定者による請願趣旨の説明と質疑応答が行われた。子連れでも構わないとのことだったので、0歳の息子を連れていき、おんぶして趣旨説明を始めたとたんにぐずり出してしまった。仕方がないので抱っこし筋トレ状態で資料もろくに見られない中、息も絶え絶えに何とか説明を終えた。議員からの質問は無かった。
その後、窓口となってくださっている議員とのやり取りで請願書を修正し、議会事務局へ提出した。請願の提出には紹介議員として1名以上の議員の署名が必要となるが、三重県議会では事務局に請願書を提出した後、事務局で署名を取りまとめてくれるシステムらしく、どの会派が署名をしてくれたのかはすぐには分からなかった。
その後6つもの会派が紹介議員として署名をしてくださったことを知った。
採択後、議員たちから「頑張りましたね」「感動しました」の声が次々と
その後、付託された委員会の様子をインターネットのライブ中継で見守った。
(選択的夫婦別姓に関しての審議は1時間5分30秒ごろから)
保守系議員は世論の動向を見るためにと継続審議を主張したが、他会派の議員は採択すべきだとの意見を次々に述べてくださった。結果、継続審議は見送られ、継続審議を支持した保守系議員の中からも一転して採択することに賛成してくださった議員もあり、委員会として採択が決定した。
そしてついに本会議最終日の3月15日、請願および意見書案は反対討論等無く、粛々と採択された。
お世話になった議員さんに御礼を申し上げねばと思っていたところ、議会が閉会すると同時に次々と各会派の議員さん方からメールや電話がきて驚いた。ある議員からは「最初聞いた時は難しいかと思ったけど、赤ちゃん連れてよく頑張りましたね。感動しました。あなたの頑張りの結果ですよ」とおっしゃっていただいた。
「政治は国民一人ひとりが参画し、作っていくもの」
今回三重県議会で意見書が採択され、嬉しい気持ちと達成感はあるものの、ほんの小さな一歩にすぎず、選択的夫婦別姓制度の実現への道はまだはっきりと見えない。しかし、今回請願を提出して感じたことは、政治は政治家が行うものではなく、国民一人ひとりが参画して作っていくものだということである。これまでの私は選挙に行けばまだ良い方、行っても誰に投票すれば良いかも分からず適当に投票、選挙公報を見ても「選挙の時だけいいこと言うだけ」と考え、選挙が終われば当選した政治家がどのような仕事を成し遂げたかなど見もしないという、恥ずべき有り様だった。しかし今回の請願を通じて、応援したいと思える議員にたくさん出会うことが出来、自分が持つ1票を誰に投票するか大変悩ましく思っている。選択的夫婦別姓制度の実現を願う一人ひとりが一歩を踏み出し、たくさんの一歩が積み重なって道が開けることを願っている。
三重県議会で採択された意見書全文
「選択的夫婦別姓制度」の法制化を求める意見書
平成30年2月に内閣府が公表した世論調査では、夫婦同姓又は夫婦別姓を選択できる「選択的夫婦別姓制度」の導入に賛成すると答えた国民が、反対すると答えた国民を大きく上回ったことが明らかになった。
また、同年3月20日の衆議院法務委員会において、夫婦同姓を義務付けている国は、日本以外にはないことを法務省が答弁している。
結婚に際して夫婦のいずれか一方が改姓しなければならない制度においては、改姓に伴う社会的な不利益・不都合や、望まない改姓に伴う精神的な苦痛を避けることができないという問題が生じる。こうしたことは、事実婚を選択する者の増加による婚姻の形骸化や非婚化、少子化につながっているとの指摘もある。
世論調査や国際社会の状況も踏まえると、こうした問題を解決するため、我が国においても、「選択的夫婦別姓制度」を導入することが必要であると考える。
よって、本県議会は、国において、「選択的夫婦別姓制度」の法制化を実現することを強く要望する。以上のとおり、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。
平成31年3月15日
三重県議会議長 前田 剛志
(提出先)
衆議院議長
参議院議長
内閣総理大臣
法務大臣
後日、採択時の賛否が公開された。議長除く47名中賛成29名、反対18名。自民党は委員会で賛成に回った西場議員ともう一名が賛成してくれていたことがわかった。ありがとうございました!
編集後記:あなたにも国を動かす力があります
早朝に届いた姫野さんからのこの手記。「きっと授乳で朝早く起きていたんだろうな」と読み始めたら、いつの間にか私は泣いてました(ノД`)。たった一人の声でも議員さんたちを動かし、地元議会を動かし、そして国会を動かすことができるんだ!その実例を、姫野さんに見せていただいた思いです。「エイやっ!とクリック」してくれてありがとう!(笑)
三重県以外の議会でも、採択が続いています。「どうか、国会に届いてほしい」。その一心でメンバーによる陳情・請願の提出が相次いでいます。
国会議員の皆さん、選択的夫婦別姓訴訟の裁判官の皆さん。ここに「民意」があります。120年前の法律を、今を生きる私たちのために変えてください。
最近よく「井田さんてなぜ、『代表』ではなく『事務局長』なんですか?」と聞かれます。それは、「代表」は選択的夫婦別姓制度の法制化を願って集まってくれたメンバー一人ひとりだから。姫野さんのように、あなたの中にもこの国を変える力があります。国会に声を届けましょう!(事務局長・井田奈穂)
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