開催趣旨:「本当の“女性活躍”とは何か」を問い直す
国際業務に就く当事者7名が証言
海外赴任・国際業務は「法的氏名での着任が原則」
結婚改姓した場合、日本ではパスポートの表書きに(旧姓)が併記できますが、これはICAO(国際民間航空機関)の国際規格からは逸脱した日本独自の仕様です。ICAOのルール上、ICチップの電子データには法的氏名以外は入れられません(外務省の解説ページ)。
表書きと電子データが一致しない旧姓併記がゆえに、邦人渡航者がトラブルに巻き込まれるケースは、外務省自身も資料化しています。また実際の渡航者も証言しています(米国駐在員の例/米国在住デザイナーの例)。
国連機関の規則は「パスポートの電子データに登録されている姓名を用いる」
電子データにはない別の氏名を用いて国連職員に応募、勤務することは基本許されていません。国民に望まない法的改姓をさせた挙げ句、国際規格から逸脱したパスポートを発給し、トラブル時は本人に「これは日本の法律で仕方なく…」と説明をさせる国など、日本以外にないので、当然の措置といえます(フランスのパスポートでも別名併記が認められています。しかし生涯姓名不変が原則のため、本人が婚姻前から一貫してキャリアを築いてきた法的氏名と電子データが一致しないという事態は発生しません)。
任期ごとに応募し直す国連職員は、「キャリア途中の改姓は圧倒的に不利」
国連職員の競争は大変厳しく、任期ごとに昇進を勝ち取るシステムとのこと。1つのポジションに数千人が応募する場合もある中、やむなく結婚改姓した女性たちは、別人と判断されかねない新しい氏名で勝ち抜かなければならない困難が、登壇者から口々に語られました。
「審査の過程で、学位や論文、職務経歴が氏名で検索されます。結婚前の実績と一発で紐付かないと、不採用のリスクが高まります」
「欧米出身あるいは英語ネイティブ、白人男性が圧倒的に有利な職場環境で、自分にしかない経験や知識、実績をこれでもかというぐらいアピールする必要があります。知名度を上げて常に競争に勝ち続けていくことが求められるにもかかわらず、旧姓時の実績が認知されない・されにくいことは不利になってしまいます」
「どちらかが結婚改姓を必須とされる法律について話すと、同僚から『そんな国がまだあるの? 日本って先進国じゃないの』と仰天される」「旧姓使用という概念すら理解されない」
このような苦境にある中、登壇した国連職員らは、以下4パターンで苦労して働いてきました。
1.交渉して、一部IDでのみなんとか旧姓使用が認められ「使い分ける」ケース=2名
パターン1では、ジュネーブの国連本部で働くお2人が証言してくださいました。
着任時に氏名の扱いで紛糾し、多大な労力をかけながら、日本政府を間に立てて交渉し続け、なんとか国連から名刺とメールアドレスに旧姓で記載が許されたお2人。しかし現地の各種IDでは「出身国のパスポートのICチップ情報と一致させる」というルールがあり、旧姓は合致しません。その結果、4種類の氏名を使い分ける状況に。
国連職員ID・メールアドレス | 日本 パスポート | 在住国の銀行口座 | 国連パスポート | 在住国の滞在許可証 | 在住国の運転免許証 |
出生姓 | 括弧付併記 | 併記 | 戸籍姓 | 戸籍姓 | 戸籍姓 |
しかし複数氏名を使い分けは、当然のことながら、セキュリティが厳格な場所では怪しまれます。
「欧州国連本部の受付では、日本のパスポートを携帯しない限り身分が証明できず、国連の建物間の移動さえ容易ではない」
「同僚がホテルに届け物をしてくれたが、『その氏名の人はいない』と言われてしまった。万一事故があった時も、私はそこに存在していないことになる」
「戸籍姓で一貫したい人にとって、旧姓使用ではコスト、毎度の自己証明の労力、嫌な思いが重なる。旧姓が使えれば良いなんて問題ではないことを強く主張したい」
2.原則通り、旧姓使用がまったく認められないケース(これがほとんど)=3名
証言した国連職員2名、省庁職員1名はいずれも旧姓使用を交渉しても断られ、10年以上のキャリアの途中から、新姓での着任を余儀なくされています。国際業務ではこのケースがほとんどとのこと。
「国際機関で世界7カ所の任務地で勤務してきた。旧姓での論文・出版物も多い。2021年に結婚し、旧姓での業務継続を希望したが、国連機関の規則では「パスポートの電子データに登録されている姓名を用いる」こととされており、旧姓を用いることができなくなる。日本のパスポートには旧姓を記載できても、電子データには戸籍姓しか登録されないため意味がない」
「日本の防衛省、日本のシンクタンクで働くまでは旧姓使用ができたが、国連入職時に旧姓使用の申請が却下された。パスポートやVISA取得が絡むことを考慮して法的氏名の新姓で申請し獲得したフルブライト奨学金のHPでは新姓で表記されているため、旧姓での”私”と新姓での”私”が同一人物だということを、いちいち説明しないと分かってもらえない。2つの姓が、キャリア構築に重要な”実績のアピール力”を妨げていると実感している」
また省庁の職員は、国際業務に就くことになった2022年、旧姓併記の公用パスポートの申請をしたところ、却下されたことを証言しました。
「却下の理由は、参加する予定の国際会議に旧姓で登録されている実績がないため、今回新たに登録する氏名を戸籍姓にすれば「用務の遂行の不都合」は生じないとの判断によるためとのこと。しかし実際働き始めたら、私のメールアドレス(旧姓のアルファベットからなる)が会議の登録姓と異なるため、会議事務局で登録情報に疑義ありと判断され登録手続きが遅滞した。公用旅券の旧姓併記という制度がありながら、運用上は承認のハードルが非常に高く、活用できていない」
個人認証がそこまで厳格でなかった時代や、過去に旧姓で会議登録した実績のある省庁職員に公用旅券の旧姓併記が認められたケースはあるそうです。しかしGDPR以降、世界的に個人認証はより厳格化。氏名を使い分けると、国際会議で「誰かわからない不審人物」との疑念を持たれかねない不利益があることが、彼女の話から伝わりました。
3.改姓の不利益を避けるため、結婚後も旧姓パスポートを名義変更せず使い続けるケース=1名
「2カ月後にキャリアの継続か、離婚を迫られています」。こう話したのはニューヨーク国連本部で政務官として紛争地の政治ミッションに携わる女性。空席に数百名が応募する厳しい競争を勝ち抜き、花形のポストを手に入れました。2018年に日本人男性と結婚しましたが、改姓の不利益を避けるためにパスポートの期限まで、名義変更をせずに使い続けている状態。でも有効期限が2カ月後に切れるのです。
パスポートを名義変更すれば
- 空席応募の際に名前が認識されず、選考から外れるリスク。
- 国連ID変更、国連パスポート再発行、外交ビザ再取得のため、帰国を含めて業務に支障、同僚に迷惑をかけざるを得ない。
一方、旧姓を維持するために離婚すれば
- 海外で事実婚のまま子どもを産む場合の不安
- 税金面など経済的な損失
- 現在、米国のグリーンカードの申請中の夫と家族とみなされなくなる
夫も研究者のため、論文など研究実績の継続性を考えると改姓には大きなデメリットがあり、「名字の交代」はお互いに望んでいません。
国連政務官として活躍する夢を妥協しないため、離婚を選択せざるを得ないのが日本の現状。家族のまとまりがなくなるという議論がありますが、夫婦がいずれかの夢を妥協して保たれる結婚が、男女平等・女性活躍を目指す日本の家庭像なのでしょうか。
4.改姓の不利益に耐えられず、離婚を余儀なくされたケース=1名
国連職員としてジュネーブで働いていた女性は、着任前、離婚を選ばざるを得ませんでした。
改姓を避けるためアメリカの法律で夫婦別姓で婚姻していた2人ですが、先に海外赴任することになった夫が、配偶者ビザ取得のために彼女が改姓する形で申請を提出。その後彼女も国連職員となりましたが、前述の女性たちのような不利益があると聞いていたことから、着任前に離婚したのです。
互いに国連職員となったカップルはいま、離婚したままで子どもを持つこともためらっているとのこと。内閣府男女共同参画局が20歳以上70歳未満の2万人を対象に、2021年度に実施し以下の調査では、望まない改姓をさせる現行法が、非婚・少子化の大きな要因になっていることが浮き彫りになっています。
内閣府調査でも見えた、非婚・少子化の一因=望まない改姓の構図
内閣府男女共同参画局が20歳以上70歳未満の2万人を対象に、2021年度に実施した「人生100年時代における結婚・仕事・収入に関する調査」では、結婚で「好きな人と同じ名字・姓にしたい」と望む女性は既婚で1.1%〜0.8%、独身で2.3%〜0.6%。逆に独身女性に「結婚したいと思わない理由」を聞くと、25.6%〜35.3%の高率で、「名字・姓が変わるのが嫌・面倒」と答えています。
OECD調査によると、日本では親が法律婚しない状態で生まれる赤ちゃんは先進国でも最も少ない2.4%。さらに内閣府の令和4年少子化社会対策白書では、合計特殊出生率に影響する要因の9割が「初婚行動」にあると指摘。つまり「初婚をスムーズに決められない」ことが最大の障害になっているのです。非婚・少子化の大きな要因の一つが「望まない改姓問題」であることが、明らかになりました。
2つの検証結果「国の世論調査の結果は選択的夫婦別姓への支持が下がったことを示すものではない」
最後に「家族の法制に関する世論調査」で選択的夫婦別姓について聞いた設問が、2017年公表版から2022年公表版で大幅に変更された問題について2つの検証結果をご紹介しました。
すでに朝日新聞の10回連載「夫婦別姓 対立の120日」で、反対議員から指示(圧力)を受けた法務省が、反対派に有利になるように設問に恣意的な操作を与えたことが示唆されていますが、この2つの検証結果は、あたかも「旧姓使用」に突然大きな支持が集まったかのように見えた2022年公表版の結果が、「聞き方」により導かれたもので、世論の選択的別姓制度に対する支持の低下だと解釈すべきではないと結論づけられています。
検証調査1:スタンフォード大学アジア太平洋研究センター
2022年現代⽇本の政治・経済・社会問題に関する世論調査「スタンフォード・ジャパン・バロメター」(日本語訳)スタンフォード大学社会学部筒井清輝教授/チャールズ・クラブツリー助教授
検証調査2:小林哲郎准教授(香港城市大学)・三浦麻子教授(大阪大学)
今回の勉強会のために阪大・三浦教授が動画解説をご用意くださいました。以下のページからご覧いただけます。
「夫婦別姓に関する世論調査」問題の実証的検討 人心が変化したのか,聞き方の違いか
調査の「聞き方」「答え方」がデータに与える影響(大阪大学大学院人間科学研究科教授:三浦麻子) #その心理学ホント?
経済界からも「女性活躍推進の上で、夫婦同姓制の見直しが必要」とのアンケート結果も
8党の呼びかけ人の皆様に心より感謝申し上げます
自由民主党・井出庸生衆議院議員
井出議員との初めての出会いは2019年の超党派勉強会でした。私たちが主催した2020年超党派勉強会でも実施に奔走してくださり、2021年3月に発足した自民党「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」では事務局として、これまで何度も勉強会を重ねる中、たびたびメディアでも法改正を訴え、当事者にも証言を届ける場を与えてくださっています。(例:2021年12月の勉強会の様子)。井出議員は、サイボウズ・青野慶久社長の証言を聴いたことで「男性も当事者意識を持たなければいけないと気付かされ、制度の改善に取り組むべきだと思った」とのこと(毎日新聞)。国会質疑でも里親家庭を例に、「温かい家庭環境、親子関係を築くことと、名字が異なることは両立する」という趣旨の答弁を、厚労省から引き出してくださっています(2021年3月17日衆議院法務委員会)。
立憲民主党・ 西村智奈美衆議院議員
20年近く「自分ごと」として選択的夫婦別姓法案の実現に取り組み続けてくださっている、旧姓通称使用の議員のお一人です。2021年に初めて私たちと意見交換の場を設けていただきました。今回呼びかけ人のお礼に伺った際は、法務委員でいらっしゃる鎌田さゆり衆議院議員(左)とご一緒に面談してくださいました。国会では宗教団体が食い止めてきたジェンダーの問題を質疑で取り上げるなど、選択的夫婦別姓実現に何がネックになっているのかをつぶさに見て、「四半世紀以上前に答申が出ている。期限を区切って一日も早く実現を」と、国会質疑もし続けてくださっています(例:2023年2月1日衆議院予算委員会)。
日本維新の会・高木かおり参議院議員
日本維新の会国会議員団ダイバーシティ推進局長として、政策の中に選択的夫婦別姓や同性婚実現を挙げてくださっています。
初めてご縁をいただいたのは2021年11月、維新の会のダイバーシティ推進局でオンライン勉強会を開いていただいた時でした。今回の面談では、維新の中でも選択的夫婦別姓に反対する議員は一定数いるとのこと。本質的な選択制への理解を党内にも広げていけるよう、意見交換をさせていただきました。
公明党・大口善徳衆議院議員
旧姓の通称使用の困りごとについて、大口議員を中心とした公明党法務部会ではたびたびヒアリングをしていただいております。山口代表にも陳情アクションからの法改正要望書を受け取っていただきました。党として地方議会の公明党議員さんに意見書可決を呼びかけてくださり、各地でヒアリングしてくださっています(例:茨城県/宮城県)。可決した東京都議会でお力添えいただいた高倉良生都議とともに、対談特集も組んでいただきました(2021年8月27日公明新聞)。その中で大口議員は「もう、これ以上、先延ばしは許されないとの決意で早期実現に取り組んでいく」と決意を語ってくださっています。
日本共産党・小池 晃参議院議員
国会質疑で何度も選択的夫婦別姓について取り上げてくださっている小池晃議員。当時の菅義偉首相がかつて選択的夫婦別姓を推進する立場で議員活動をしておられ、「私は政治家としてそうしたことを申し上げてきたことには責任がある」という答弁を小池議員が引き出してくだいました。世論調査の設問変更の問題でも原因解明にご尽力くださっています(例: 2021年12月17日参議院予算委員会)。今回は事実婚にならざるを得なかった20代のメンバー(右)も同行し、彼女の体験にも心を寄せてくださいました。
国民民主党・伊藤孝恵参議院議員
国民民主党では事実婚当事者の矢田わかこ前参議院議員が国会質疑で何でも取り上げてくださり、旧姓併記の莫大なコストの一部も判明(例:2020年11月6日参議院予算委員会)。玉木雄一郎代表とともに党本部でパネルディスカッションを開いていただくなど、党をあげて法改正をサポートしてくださっています。伊藤議員も「すぐ実現しなければいけない問題」と断言してくださいました。テレビ朝日ドキュメンタリー「女性議員が増えない国で」にある通り、伊藤議員は男性優位の政治を、名もなき女性たちの声を代弁することで変えていこうとされています。
れいわ新選組 櫛渕万里衆議院議員
れいわ新選組では党内勉強会のほか、大石あきこ議員に8党のオンライン勉強会にご参加いただくなど、法改正を推進してくださっています。国際別姓結婚でいらっしゃる櫛渕議員は、「別姓で困ることなどないのになぜ決まらないのか」と疑問を持っておられるとのこと。旧統一教会がいかに政策を歪めてきたか、とくに、選択的夫婦別姓の導入や男女共同参画、こども家庭庁の名称変更に影響を及ぼしてきたのではないかについて、的を射た国会質疑(例:2022年10月28日衆議院内閣委員会)をしてくださっています。
社会民主党・福島みずほ参議院議員
議員生活25年、それ以前から弁護士としても選択的夫婦別姓に取り組み続けてくださっているレジェンド。その道のり、思いは社民党公式サイトでも読むことができます。数しれない国会質疑の中でも印象に残るのは、当時の男女共同参画担当大臣だった丸川珠代議員ら50名が地方議会に対し、選択的夫婦別姓に反対するよう水面下「圧力文書」を送っていた問題で、福島議員が7回にわたりその理由をただした質疑でした(2021年3月3日参議院予算委員会)。長年、人権、ジェンダー平等に心血を注ぐ福島議員のような存在がいてくださったからこそ、私たちも前へ進めると思います。
呼びかけ人以外にもこの期間、自民党の中でなんとか法改正を進めようと努力し、「夫婦別姓〜家族と多様性の各国事情」 (ちくま新書)では座談会にも出てくださっている鈴木馨祐議員、同じく自民党で、ご自身も改姓問題のためになかなか結婚できなかったことから、国会でも「氏が同一であることと、家族の一体感、心のつながりとは別次元の話だ」と賛成の質疑(2021年3月12日参院予算委員会)をしてくださった三宅伸吾議員、また、法務省から改めて「選択的夫婦別姓を導入しても戸籍制度に大きな問題はない」との答弁を引き出してくださった立憲民主党・吉田はるみ議員(2023年2月2日衆議院予算委員会)にもお会いすることができました。
8党の皆様のご参加、ご協力誠にありがとうございました。私たちはこの超党派勉強会の枠組みを定期開催として、法改正のラストスパートをかける軸の一つとしていきたいと考えております。これからもどうぞよろしくお願いいたします!
この勉強会について毎日新聞に報道されました
小国綾子記者のコラム「あした元気になあれ」で取り上げられました。
「旧姓使用」は海を越えない(2023年5月23日)