「留学先(デンマーク)での旧姓利用が想像以上に大変だった」岡田さんの場合

「既に結婚してそれなりの年月も経過する中で、戸籍姓と旧姓の使い分けでうまく生活が出来ていたのです」と語るのは、最近半年間のデンマーク留学から帰国されたばかりの岡田さん。

ところが、いざ海外へ交換留学となった途端につまづきの連続だった、という岡田さんにお話を伺いました。

まさか旧姓のみの通称利用がこんなに通用しないとは思っていなかった

— 岡田さんが選択的夫婦別姓について考えるようになったのは、いつ頃からだったのでしょうか。

岡田:
選択的夫婦別姓について真剣に考えたのは、2019年に入ってからです。2019年9月からのデンマーク留学がきっかけでした。結婚をしてだいぶ経つのですが、当時夫姓に変えた事も特に抵抗がありませんでしたし、その時の職場でも特に問題がなく旧姓の通称利用が出来ていたので、そこまで問題視はしていませんでした。改姓手続きはそれなりに大変でしたが私の場合は終わってみれば特に大きなトラブルも無かったので、選択的夫婦別姓の話題がでた時も「選択肢が増える事に反対する気持ちは全く無いし、自分が結婚時にその制度があれば大歓迎だったな〜」くらいの感覚でした。その時はまさか旧姓利用が原因で自分が大変な思いをするとは思っていなかったです。

— デンマーク留学で旧姓利用をするにあたり、具体的はどういったトラブルがあったのですか?

岡田:
詳しくは自分のnoteに書いたのですが(以下岡田さんのnoteです。旧姓利用にまつわるトラブルの詳細が書かれています、ぜひご一読を↓↓)

デンマーク留学で旧姓利用を貫こうと思ったら想像以上に難しかった話|Eriko Okada / KOERI
3月頭に予定通りのスケジュールを終えて、デンマーク留学から帰国しました。なぜデンマークへ留学したかの話については、別記事2019年9月からデンマークITUで在外研究する話 を参照頂ければ幸いです。 さて先日、選択的夫婦別姓の陳情アクションを...

岡田:
VISA(Residence Permit)の申請が後々引きずるトラブルの元となりました。

もとよりVISAは入国その他のトラブルを避けるために戸籍姓で申請をしていました。(※編注:日本のパスポートは旧姓併記が出来ますがICチップは戸籍姓しか掲載されていないため、海外でのトラブルが多発しています)

ただ、デンマークでは行政のオンライン化が進んでいることからデンマーク到着後に発行された日本でいうマイナンバーの様な個人IDがVISAと紐づいている戸籍姓となってしまい、またその行政のシステムが大学のシステムとも連動していました。それにより大学のシステム上に表示される名前やメールアドレス、学生証など全てが戸籍姓で発行されてしまいました。渡航前に学校側スタッフ数名に何度も何度も旧姓での手続きと発行をお願いしておいたのに・・・。

自分の名前にまつわる不安が常につきまとっていた

岡田:
戸籍姓だと誰も私を認識できないので旧姓をつけて欲しいと学校に掛け合いました。何度も説明する事を余儀なくされたのちに、「Law Name(法律姓)」はどうしても消せないと、何とか戸籍名+旧姓で対応してもらえることに。しかし旧姓のみでの記載という当初からの希望は最後まで叶わず、また学内システムのいくつか(発行されたメールアドレス)などは結局戸籍名のまま使用する形となりました。VISAを基本とした個人情報と行政オンラインを通じて大学がしっかりと繋がっている事が(本来は素晴らしいシステムなのですが)結果として私の旧姓利用を大きく妨げる結果になってしまいました。

— それは本当に大変でしたね。加えて、名前というのは個人IDなので、海外で生活する上で自分の個人IDにまつわる不安を常に抱えているというのはかなりストレスだったのではないですか?

岡田:
そうですね、常に頭のどこかに名前に関する不安がありました。
せっかくデンマークまで来たのだから100%研究のことを考えたいと思う時も、恐らく10%は自分の名前にまつわる不安がつきまとっていたと思います。そういった悩みが無く事前説明や根回しなど必要なく100%研究に没頭できる人を羨ましいと思ってしまうこともありました。結果的に私はデンマーク滞在中にこれ以上の深刻なトラブルには遭遇しませんでしたが、それは半年と期間が短かった、正規留学ではないので学位をもらう必要がなかった、病院にかかることがなかった、など正確な名前を問われるケースが少なかっただけで(それでも旧姓のみは利用できませんでしたが)、ただ運が良かったとも思います。

海外に出た瞬間からスムーズな旧姓利用はまるで出来なくなる

岡田:
先ほどお話したようにデンマークでは行政のオンライン化が進んでいることからデンマークで登録されている私の個人情報はあくまでVISAに基づいた戸籍姓の情報でした。一応日本のパスポートには「戸籍姓(旧姓)」という旧姓併記をしていましたが、これはあくまで日本独自の仕組み。国によっては(カッコ旧姓)自体に馴染みの無いところは当然に多く、結局日本の政府がよく言っている「旧姓利用ができる」のはあくまで日本国内の話。一歩海外に出た瞬間からスムーズな旧姓利用はまるで出来なくなるんだな、というのが私の実感でした。

— たしかに海外では「戸籍姓(カッコ旧姓)」という概念が無いことによるトラブルが多い、というのは最近よく聞きますね。


岡田:
デンマークでは今から約40年も前の1981年に既に選択的夫婦別姓に近い法律が出来ているので、戸籍姓とは別に旧姓を通称利用したい戸籍姓(カッコ旧姓)という感覚自体がよくわからないのだと思います。
たくさん説明しても理解してもらいにくい徒労感はこういう社会的な背景から来るのだろうなと。下手すると自分が生まれる前から既にある法律なので、現在の日本に例えると「女性だから選挙権が無い」と言われているくらい古い感覚で、その不便さを想像してもらうのも難しいのかも・・・。

(※編注:デンマークでは婚姻後は「旧姓のまま」「相手の姓に変える」「新姓(複合姓など)にする」の3パターンから氏を選べる法律が40年近く前から存在するとのこと)

画像1

(コペンハーゲン市民登録する役所前で娘さんを撮った写真:岡田さん提供)

海外受賞の実績が1つややこしい状態に

— デンマークに留学する前までは旧姓にまつわるトラブルはあまり無かったのですか?

岡田:
そうですね、私自身は正直あまり旧姓の通称利用に関して不便を感じていませんでした。子供関係のお付き合いでは戸籍姓を、自分の仕事やプライベートでは旧姓をうまく使い分けている感じだったので、むしろダブルネームを便利に使っていた印象です。それよりもこんな風にダブルネームで使い分けが出来てしまう社会のシステムに対して「本当に大丈夫?」と心配をする感じでした。

(と、ここで岡田さんが思い出したように・・・)

そういえば1点、困った事というかややこしい事態になったことがあったのを思い出しました。

ありがたく仕事で賞を受賞する時は、旧姓ですべて登録していました。ところが私の育休中に受賞にいたったものについては「戸籍姓」での受賞となってしまっていたのです。育休中に受賞したものは日本国内での賞と海外での賞があったのですが、日本国内のものに関しては個別に事務局に問い合わせをする事で旧姓へと変更してもらいました。ですが海外に関しては事務局に問い合わせしても返信がまったく来ず・・・結果として海外受賞分については、戸籍姓での受賞になってしまいました。デンマーク留学前にも自分の実績にきちんと載せたかったので、再度変更の問合せをしましたが結局返答はもらえず、戸籍姓になっている状態のままです。(とりあえず無理やり自分のCVには掲載していますが、第三者がその賞について検索した時には私の名前は認知してもらえない状態です

— それは・・・なかなかのトラブルだと思います。最後に、もし選択的夫婦別姓が法制化されたら岡田さんは別姓を希望されますか?

岡田:
私自身は正直、すぐには別姓を選択しないと思います。
既に結婚して長い年月が経っていることや子供を含めた周囲との関係性の中で戸籍名や旧姓での人間関係をそれぞれで築いているのが理由です。とはいえ、今回私が海外の大学で名前にまつわる不便さを感じたのは確かです。将来、再度の海外渡航や海外業務などを検討する時には夫婦別姓を選択肢のひとつとして考えたいですし、自分の子供が大きくなった時に私と同じような無駄なトラブルは経験させたくない気持ちもあります。やはり選択肢は多いに越したことは無いと思います。私はこれからも選択的夫婦別姓が法制化されるよう、賛成の立場として何かしらの活動をしていきたいです。


「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」では議員向け勉強会を全国各地で行っております。ぜひとも応援をよろしくお願いいたします。

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文・投稿:Y