【医師の改姓、なぜ困る?】事実婚6年目、医師であるあいさんに改姓にまつわるアンケートを取った理由を聞いてみました

「事実婚6年目、あいさんの場合」
というコラムを寄稿してくれた陳情アクションのメンバーであり医師でもある「あい」さん。

事実婚6年目、あいさんの場合
選択的夫婦別姓・陳情アクションのメンバーである「あい」さんがご自身の事実婚について、語ってくれました。どうして事実婚を選んだのか。子供が生まれた時の姓はどうしたのか。ぜひお読みください。初めまして。あいと申します。大阪府堺市で開業医をしてお...

あいさんがTwitterを通じて集計したアンケート記事が前回、大変好評でした。

【既婚医師に訊きました!本当は自分の名前で結婚したかった?】
「事実婚6年目、あいさんの場合」というコラムを寄稿してくれた、陳情アクションのメンバーであり医師でもある「あい」さん。そのあいさんが、実際に法律婚をされている医師の方々に「名前に関するアンケート」を取ってくださいました。とても興味深い結果と...

今回はあいさんに「このアンケートを行おうと思ったきっかけや、個人の姓について思うこと」を聞いてみたいと思います。

 --どうして医師に改姓についてのアンケート調査をしようと思ったのでしょうか

あい:私は2020年1月にTwitter上でアンケート調査したのですが、医師は旧姓で医師免許証を発行できるため、国内では医師免許で通用するんです。

もし旧姓通称使用によって不利益がなくなるのであれば男性が改姓しても何の不利益もないはず。

そこで、『医師が結婚した場合に、男女どちらが改姓したか』の実態を把握したいと思いアンケート調査をしました。アンケート調査の結果、圧倒的に多くの割合で女性医師が結婚後に改姓していることが分かったのです。

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--医師が改姓すると、どのようなことが困りますか?

あい:一番困るのは論文に載せる名前です。論文を書くプロジェクトのメンバーに加わっていた場合、結婚による改姓でそれまでとは全く別人と見られてしまいます。また他の研究職と同じく論文は『姓+名』で検索をかけるので、改姓によってそれまでの実績が検索できなくなり消えてしまいます。

--医師が旧姓を使用した場合、何かトラブルは起きるのでしょうか

あい:医師免許の名前を変えなければ、論文の検索上は困ることはありません。ただ『海外での学会発表で大変な目に合う』と実際に改姓した友人から聞いています。パスポートに旧姓併記したとしても飛行機やホテルを予約するときは戸籍名を求められます。自分で予約するのであれば問題ないですが、学会経由で手配するときには学会の参加登録名や論文の執筆者名である旧姓とパスポート名である戸籍姓が違うことを毎回、いちいち説明しなければなりません。

--選択的夫婦別姓に関する国会質問の際に『それなら結婚しなくていい』とヤジが飛んだ問題について、どう思いますか?

あい:『結婚しなくていい』というのは『私達のような事実婚カップルのこと?』と思いました。国を挙げて未婚を推奨し事実婚を増やしたいのかと。また与党の議員でありながら、与党が推進している少子化対策に真っ向から反対した主張だと思いました

選択的夫婦別姓を認めていない日本では、今、おそろしい早さで少子化が進行しています。

--選択的夫婦別姓を認めないと、なぜ少子化に繋がるのでしょうか?

あい:これは私個人の意見ではなく、2018年に内閣府が発表している資料です。

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この資料には『出生率の低下要因は、我が国では婚外出生が依然少ないため、結婚行動の変化(未婚化)と夫婦の出産行動の変化(有配偶出生率の低下)にほぼ分解され、前者の引き下げ効果は、後者の効果に比べてはるかに大きい』 『具体的には、(略)約90%が初婚行動の変化、約10%が夫婦の出生行動の変化で説明できる』との記載があります。

つまり少子化の原因は1.結婚行動の変化(未婚化)と2.夫婦の出産行動の変化(有配偶出生率の低下)の2つがあり、1.未婚(=法律婚していない)から妊娠出産しないケースが約90%で、2.法律婚しているのに妊娠出産しないケースは約10%ということです。

--なぜ日本では、事実婚(法律婚をしていない)だと妊娠出産しないのでしょうか?

あい:事実婚では、法律婚で認められている『国の保障』が一切ありません。子供は国からは『婚外子』として扱われます。子供の親として認められるのは『父か母かどちらか片方』だけです。

もう一人の『親』は、夫婦・親子関係を証明する『国の保障』がないので、病院で配偶者・保護者として認めてもらえず、生命保険の受取人にもなれないことが多いです。

『もし夫婦どちらかが事故・病気で入院したら…障害が残ったら…
もし子供の身に何かあったら…このまま子供を授かってもいざという時に夫婦で子供を守れないかもしれない…』

『子供どころか夫婦として国に認められていない以上、お互い他人だから、いざという時に夫婦として助け合うことさえ出来ないかもしれない…』

このように考え、子供を諦めてしまう事実婚の夫婦がいることは容易に想像できます。

事実婚カップルであっても『正式に法律婚をして、夫婦になって子供を授かって、幸せな家族になりたい』という願いを持っています。しかしそれと同時に『夫婦の2人とも、自分の生まれ持った名前でこれからも生きていきたい』と願いを持っています。

ところが日本の法律では、この2つの願いを同時に叶えることが出来ません。民法750条の規定により、法律婚をする場合は、どちらかが改姓することが条件になっているためです。

--結婚時の改姓に抵抗を感じるのはどうしてですか?

あい:自分の名前を変えるということがなぜ心理的に抵抗を感じるかというと、アイデンティティの喪失に繋がるからです。

『自分の生まれ持った名前を使い続けたいという気持ち』と『自分の夫と結婚したい』という気持ちは本来全く別次元の話であって、『どこの国に住む』とか『何を食べる』とか『どんな職業を選ぶ』とかそれらの自由と同じく『生まれ持った自分の名前を使う自由がある』と思っています。

夫は夫の名前で生きていた人生があって、医師になる前も医師になった後も自分の名前を使い続ける権利があるので夫を改姓させたいとは思いません。同様に私も『生まれ持った自分の名前を使う自由がある』ので、改姓しようとは思わないということです。

--現行の民法では結婚時に夫婦どちらかの改姓を義務付けており、最高裁判所では改姓義務付けを合憲とする判決も出ています。『夫婦2人とも、生まれ持った自分の名前を使う自由がある』と考えている根拠はどこにあるのですか?

あい:2015年の最高裁判決で『氏名』がどのような権利を持つと解釈されたかご存知でしょうか。(上の名前=氏、下の名前=名です。)

確かに最高裁判決では、『婚姻の際に【氏の変更を強制されない自由】が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない。』として、現行制度が合憲という判決が出されました。この結論はご存知かと思います。

しかしこの同じ判決の中で『改姓した者が不利益を被ること』や『婚姻前に築いた個人の信用を維持する利益が、人格的利益であること』も同時に認めたのです。その上で『選択的夫婦別姓にも合理性があり、国会で論ぜられ,判断されるべき』と判示したのです。

現行の民法が合憲だからと言って、選択的夫婦別姓が違憲になるわけではありません。

また『改姓しない自由』は『憲法上の人格権には該当しない』と判示されましたが『人格的利益』であることは同じ判決の中で認めています。法律用語の『利益』というのは、お金のことではありません。『法律で保護する対象』という意味です。

私達は、『夫婦2人とも、生まれ持った自分の名前を使う自由』という『人格的利益』を、法律で保護してほしいと言っているのです。

『結婚した後も、夫婦2人とも、生まれ持った自分の名前を使う自由を法律で保護すること』、それが選択的夫婦別姓制度なのです。
以下に2015年の最高裁判決を引用します。ちょっと長くて難解ですが、大事な部分なので、一読することをオススメします。

平成27年12月16日 夫婦別姓訴訟最高裁大法廷判決

平成27年12月16日「夫婦別姓訴訟最高裁大法廷判決」(PDFダウンロード)

判決引用
『氏が,名とあいまって,個人を他人から識別し特定する機能を有するほか,人が個人として尊重される基礎であり,その個人の人格を一体として示すものでもあることから,氏を改める者にとって,そのことによりいわゆるアイデンティティの喪失感を抱いたり,従前の氏を使用する中で形成されてきた他人から識別し特定される機能が阻害される不利益や,個人の信用,評価,名誉感情等にも影響が及ぶという不利益が生じたりすることがあることは否定できず,特に,近年,晩婚化が進み,婚姻前の氏を使用する中で社会的な地位や業績が築かれる期間が長くなっていることから,婚姻に伴い氏を改めることにより不利益を被る者が増加してきていることは容易にうかがえるところである。

これらの婚姻前に築いた個人の信用,評価,名誉感情等を婚姻後も維持する利益等は,憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとまではいえないものの,後記のとおり,氏を含めた婚姻及び家族に関する法制度の在り方を検討するに当たって考慮すべき人格的利益である。

なお,論旨には,夫婦同氏制を規制と捉えた上,これよりも規制の程度の小さい氏に係る制度(例えば,夫婦別氏を希望する者にこれを可能とするいわゆる選択的夫婦別氏制)を採る余地がある点についての指摘をする部分があるところ,上記(1)の判断は,そのような制度に合理性がないと断ずるものではない。上記のとおり,夫婦同氏制の採用については,嫡出子の仕組みなどの婚姻制度や氏の在り方に対する社会の受け止め方に依拠するところが少なくなく,この点の状況に関する判断を含め,この種の制度の在り方は,国会で論ぜられ,判断されるべき事柄にほかならないというべきである。

構成:杉田 誠

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