ハンガリー:婚姻時の姓の選択が多様な国

こんにちは。旧姓利用中男性研究者です。今回は、ハンガリーにおいて婚姻時にどのような姓の選択があるのか、について紹介したいと思います。

ハンガリーの現政権は、大学のジェンダー論研究科を廃止するなどジェンダー政策に後ろ向き、という報道[1][2]もされており、あまり男女平等政策が進んでいない、というイメージを持たれている方も多いかもしれません。

たしかにハンガリーの2018年のジェンダーギャップ指数は102位、と褒められた順位ではありません[3]。とはいえ、この順位、実は日本の順位よりも上なのです。日本の昨年の順位は110位で、G7中では最下位でした[4]。この日本のきわめて低い順位の日本を象徴しているのが日本の民法だと思います(低い順位がそれが原因だ、とまで言えるかどうかはわかりませんが)。

ご存知のとおり、日本の民法は夫婦に同姓を強制していますが、このグローバル時代に逆行していまだに夫婦に同姓を強制している国家はもはや日本しか残っていません。かつてはドイツ、オーストリア、トルコ、タイなど少なからずあった同姓のみを定めていた国家は、日本以外すべて選択制に移行しています。

さて、ハンガリーです。ハンガリーはとても長い歴史を持つ国で、氏名に関しても独特の伝統を持ちます。ハンガリーでは、姓名の順がFamily name, Given nameの順ですので、日本人にとっては非常に親近感がわきますね。しかしそれだけではなく、後で説明するように、ハンガリーの伝統に基づく婚姻時の姓名の変化の形態は、外国から見るととてつもなく封建的なものとみられかねないものでした。

これに対し、ハンガリーでは(硬直化してしまっている日本とは異なり)時代に応じて様々な改革を成し遂げた結果、今では、夫婦はなんと7種類もの氏名の形態から選択することができるようになっています[4]。

ジェンダーギャップ指数は日本なみに低いとされる国ではあっても、こと婚姻時の氏名の選択に関しては、とっくに日本よりも何歩も先を行っているわけです。以下ではハンガリーにおいて、婚姻時にどのような氏名の選択が可能かを説明しましょう。

1952年以前、ハンガリーでは、婚姻時に男性が姓名を変えることはなく、女性のみが変えていました。女性には当時は2つの選択肢がありました。

① 男性の姓+男性の名にnéを付加したもの
② 男性の姓+男性の名にnéを付加したもの+婚前姓+婚前名

ここで注目していただきたいのはもっとも伝統的な選択であるとされる①です。①を選択すると、自分の姓名はすべてなくなり、相手の名前+ néという名前に代わる、というもので、②という選択肢があるとは言うものの、(外国人から見れば)ものすごい制度ですね。(現在の日本の夫婦同姓制度が世界から言われている(気づいていますか?)のと同様に)「なんという封建的な制度だ!」と叫びたくなる人も多いのではないでしょうか?

1953年になると、女性が婚前姓をそのまま使うことができるようなりました。

③ 婚前姓+婚前名

いわゆる「別姓」で、日本ではいまだに達成されていないものがハンガリーでは1953年には達成された、と言うこともできます。

1974年になると、さらに選択肢が広がります。

④ 男性の姓+婚前名
⑤ 男性の姓にnéを付加したもの+婚前姓+婚前名

④はドイツ・イギリスなど同姓の国に倣う選択肢も追加した、ということで、「当時」のグローバル対応、ということもできるかと思います。⑤は②で4つの名前を持つのはグローバルでは一般的ではないための簡略化、と見ることもできそうです。

ハンガリーの首都・ブダペストのトラム

2004年になるとハイフンで結んだ複合姓も認められるようになりました。また、同時に男女の格差をなくするために、それまで姓名を変えるのが女性だけであったのを、逆も可能にしています。(ですので、2004年以降は①~⑤に関しても男性側が姓名を変えることが可能となっています。)

⑥ 配偶者の姓-婚前姓+婚前名
⑦ 婚前姓-配偶者の姓+婚前名

いろいろと試行錯誤して制度を変えたハンガリー。単純に多くの選択肢があって素晴らしいと思います。

さて、日本。日本ではいまだに選択的夫婦別姓制度が導入されていません。反対する方の中には、「日本が崩壊する」などという方もいらっしゃると聞きます。しかし、これよりもはるかにドラスティックな変化を経たハンガリーだって崩壊していません。それどころか、[5]では、少し古いですが、徐々に③の選択肢などが増えているが、伝統的な①の選択肢を選ぶ女性が7割、との1997年の調査結果を紹介しています。

選択肢を増やしても、社会がドラスティックに変化することはない一方で、伝統を選択したい夫婦は伝統を選択し、別の形を選択したい夫婦は別の形を選択する、ということができるようになり、ハンガリー国民はより幸せを享受しやすくなったであろうことが容易に想像つくように思います。もう完全周回遅れの日本ですが、グローバル時代にも誇れる日本を維持するためにも、今すぐ選択的夫婦別姓が実現されることを祈念してやみません。

参考文献
[1] “Hungary’s plan to ban gender studies sparks international backlash”, Science|Business, 22 Aug, 2018.
[2] 「大学での『性の多様性研究』を禁止、ハンガリー政府」、CNN.co.jp、2018年10月20日。
[3] The Global Gender Gap Report 2018.
[4] 「ジェンダーギャップ指数2018、日本は110位でG7最下位『日本は男女平等が進んでいない』」HUFFPOST、2018年12月18日。
[5] Fercsik Erzsébet: The Traditional and Modern Forms in the Naming of Hungarian Women, In: Maria Giovanna Arcamone – Donatella Bremer – Davide De Camilli – Bruno Porcelli (eds). Atti del XXII Congresso Internazionale di Scienze Onomastiche Pisa, 28 agosto – 4 settembre 2005. vol. IV. Antroponomastica. Edizioni Ets. Pisa., pp. 131-140.

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