オランダでは結婚して改姓すると、生涯収入6000万円ダウン?!

こんにちは。旧姓利用中男性研究者です。今回は、オランダの婚姻事情と、そのオランダの研究機関が出した大変興味深い研究結果についての記事を紹介したいと思います。

ご存知の方も多いかと思いますが、現在、世界の数多くの国々の中で、夫婦となる際に同姓を規定している国は日本だけだそうです。以前は、日本が明治民法を作成する際にも参考にさせていただいたというドイツをはじめ、オーストリア、スイス、トルコ、タイなど、他にも同姓とする規定を持っていた国もあったそうですが、日本以外のいずれの国も別姓や複合姓といった選択肢を増やし、今では同姓しか選択肢がないのは日本だけとなってしまっています(日本でも国際結婚の方だけは同姓・別姓を選ぶことができますが…)。

さて、オランダですが、もちろん当然のように婚前姓そのままの婚姻(別姓)ができますし、どちらかの配偶者の姓に統一することもできます。さらには、二人の姓をハイフンで結んだ複合姓にすることもできます。選択肢がいっぱいあって良いですね。ちなみに、ティルブルフ大学の調査によれば、およそ3/4のカップルが2人の姓を統一し、7%が複合姓とし、残る約2割のカップルは婚前姓のまま婚姻、すなわち別姓とするそうです[4]。いろいろなカップルが互いに認め合う、というのは大変素晴らしいと思います。そんな中、そのオランダのティルブルフ行動経済学研究所が大変面白い社会科学的実験を行った、という記事がいくつかありましたので紹介したいと思います[1][2][3][4]。

実験では、同一の女性に関する情報について、「婚姻後も女性が婚前姓をそのまま用いている(夫婦別姓)」か「婚姻時に配偶者の姓に改姓した(夫婦同姓)」かの情報のみを変更して、その違いによって、周囲の評価がどのように変わるかを調べたとのことです。それによれば、

  • 婚姻時に改姓した女性は、男性、別姓を選択した女性や、未婚女性等と比較して、「気遣いできる人物」という評価を得た一方、「独立できている人物」「志が高い人物」「知性の高い人物」「競争心の高い人物」といった評価は得られない傾向があった。
  • 実験参加者に、それらの女性をある架空職に採用するかどうかを判断してもらったところ、婚姻時に改姓した女性が採用される率は低下した。その結果、婚姻時の改姓によって見積られる月収の低下は、平均で1172.36ドルと推定された。

のだそうです。

これを生涯収入に換算すると、1ドル112円、期間40年として、なんと、6000万円以上もの差になります。婚姻時に改姓するかしないか、というたった一つの違いで、これほどまでの差が生まれる可能性があるわけです。

そもそも選択的夫婦別姓の選択肢のない日本では、好むと好まざるとにかかわらず、婚姻時、カップルの片方がこれくらいの損害を受ける可能性が常にあるわけです。そのような不都合を実際に受けている方の損失についてのみならず、そのような不都合を許容する余裕が、少子化で労働人口が減少していく今後の日本に果たしてあるでしょうか?

先日の東京医科大の入試での差別は、あからさまに男女の生涯収入に差をつける行為でした。しかし、現在の日本の選択的夫婦別姓を許さない民法規定も、全く同じような生涯収入の違いを引き起こしている可能性が極めて高いのではないでしょうか。東京医科大入試の改善は急務で大学や業界を挙げての改革が待ったなしですが、それと同様に、選択的夫婦別姓制導入についても今すぐ国を挙げて取り組むべき課題だと私は思います。

謝辞

当初の記事で、ティルブルフ大学の調査における同姓と別姓の割合を誤って記載していました。お詫び申し上げます。また、誤りの指摘をしていただいた方に感謝申し上げます。

参考文献

[1] Catherine Rampell, “Women, Work and a Name Change”, The New York Times, April 14, 2010.

[2] LEARNVEST, “Keep Your Maiden Name, Earn $500,000 More?”, POPSUGAR, June 22, 2011.

[3] Katherine Butler, “7 Reasons Married Women Keep Their Last Names”, ecosalon, June 21, 2011.

[4] Tim Parker, “Financial Implications Of Keeping Your Maiden Name”, Investopedia, July 16, 2012.

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