選択的夫婦別姓・全国陳情アクションに参加しているなぎです。
私は新卒で銀行に入社し、給与担当→営業担当→システム企画担当というキャリアを歩んできました。そんな私が仕事に取り組む中で感じた「選択的夫婦別姓制度がないことによる弊害」について記載したいと思います。
【給与担当】エラーの大半が結婚改姓によるものだった
「給与担当」はどんな仕事かちょっと想像しづらいかもしれません。
企業に雇用されている方のほとんどは、毎月の給与を銀行口座から受け取っていることでしょう。毎月の給与が振り込まれるまでには、企業が給与計算をする→それぞれ誰にいくら振り込むか銀行にデータを渡す→お金を口座にプールしておくという一連の流れがあります。
銀行の給与担当では、毎月、多くの企業の給与振り込み日である25日より数営業日前に給与のデータを受領し、それが銀行に登録されているデータと一致しているかのシステムチェックを行います。そしてシステムチェックにて「一致しない」となったものについては、それぞれ人の手で「この人の口座番号と名義人名が一致しません」とシステム的にはじき出したもののについて、それぞれの企業の給与担当に連絡し、正しいものについて連絡してもらうという作業をしているのです。
毎月さまざまな企業の給与振込を行っているので、上記の「一致しない」データが出てくるのですが、大半が「改姓によるもの」が要因でした。
会社に改姓を届け出する際には、おそらく給与受け取り口座の変更とセットになっている企業も多いことでしょう。
それとは別でプライベートでも口座名義の変更を行わなければいけません。
口座名義変更のタイミングと、会社へその変更を届け出るタイミングが少しでもずれると、これは発生します。
もちろん改姓による届け出などが要因のエラーばかりでなく、単純に口座番号が間違っていた、というケースもなくはないですが、毎月改姓が要因のエラーは多く発生しています。
一つの企業が従業員に対して期日に給与の振り込みができないということは、「賃金未払い」となるということ。そもそもそんな会社、勤めたくないですよね。従業員の口座に給与が振り込まれなければ、家賃やクレジットカードの引き落しなどにも影響しかねません。生活上、重大な支障を来す恐れがあるのです。
各企業の給与担当の人は、「給与振り込み漏れ」があると大変なので、振り込み日より前には本人に口座番号や名義などを確認したり、ばたばたしています。大変です。
これも結婚において望まない人まで改姓せざるを得ない制度がなくなれば、少しでもエラー件数が減るだろうなと思います。その分、人事部や総務部の給与担当に割かれていた人員リソースが他の仕事に回せればもっと経済は回るのだろうに、と思っていました。
【システム担当】法的根拠がない旧姓。口座で利用不可の理由は「名寄せ」ができないから
Twitterでこんなツイートを見かけました。
「全国銀行協会に旧姓で口座が利用できるか聞いたら、『戸籍姓ではないので利用ができない』という回答をもらった」
システムの企画に携わっている身として、銀行側から少し言い訳をさせてください。
今現在、ほとんどの金融機関では旧姓では口座は利用できません。
というのも、「名寄せ」が困難になるからです。
多くの金融機関において、個人は、「氏名」+「生年月日」で管理をしています。
住所や携帯電話番号ではなく、氏名と生年月日の組み合わせで、お客様番号を振って管理をしています。そしてその氏名は、お客様が持っている免許証などの本人確認書類で確認を行ったもののみ、登録が可能です。
ところが改姓をすると、お客様特定のためのキーの一つである「氏名」が無効になってしまいます。そのため、同じ人であるという証明のためにも、戸籍名での登録が必須になってきます。
政府が進めようとしている旧姓利用拡大に対応をしようとして、2017年に銀行へも金融庁から「旧姓で口座が利用できるようにシステム改修できるようにしてね」というお達しが出ていました。
これに対応をするため、私の会社でも、お客様の利便性向上のため、システム改修のための予算見積もりを行いました。
いくらだと思いますか?数億円です。もう一度言います。数億円です。
(具体的にいくらなのかについては非公開なので、このレベルの表現にとどめさせてください)
システム業界にいらっしゃる方は、システム上の一文字を直すのに数百万~かかることは想像できるとは思うので、一つの銀行が旧姓での口座利用のための改修作業を行おうとしたら数億円と言えば、「さもありなん」という反応をされるかもしれませんが、一般的に一企業が数億円の投資をするのはかなりのリスクです。
それでも、お客様の利便性向上や、「名寄せ」ができることによってメリットはあるので、検討を行いました。
私も内部にいる人間として、「銀行で夫姓で呼ばれなくて済む!」とワクワクしていました。
でも、そこに来たのが「ゼロ金利政策」。
この政策の詳しい説明は省きますが、これをきっかけに、各銀行が定期預金の利率を下げたり、送金手数料の値上げなどを行いました。そしてシステム開発にも御多分にもれず影響がありました。
「利益向上のためのシステム案件や法律対応でないシステム案件についてはおおむね延期」という決断に至ったのです。
ゼロ金利政策についてはどうこう言うつもりはありません。そういう決断をするときもあるでしょう。それによって各銀行が方針を変えるのも至極当たり前のことです。
でも、そもそもこの数億円という投資。
選択的夫婦別姓制度があって、旧姓に法的根拠さえ与えられれば、全く必要ない投資なんですよ。だって私たち銀行は法的に根拠のある名前と一致していれば問題ないんですから。
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