選択的夫婦別姓・全国陳情アクション事務局長の井田奈穂です。私たちは2021年2月26日に、選択的夫婦別姓に反対する国会議員50名に公開質問状を提出しました。この記事では、50名を把握した経緯と彼らの主張、それに対する法学者の解説、そして私たちが出した公開質問状の内容・意図についてご説明します。
質問状の送付先となる反対議員のリストはこちらの記事でご確認いただけます。
公開質問状を出すに至った経緯
私は奈良県生まれ、埼玉育ち。私を育んでくれた埼玉県の議会でも意見書を可決していただけたらうれしいと考え、埼玉県議会の先生方にご面談をお願いし、かねてより当事者の困りごとをご相談していました。中でも田村議長は(最初は反対でいらしたものの)非常に深く理解してくださり、何度もブログに賛成意見を書いてくださっていました。
田村議長が2021年2月3日に更新された以下のブログに、私たちは驚きの情報が掲載されたことを知りました。選択的夫婦別姓反対の国会議員50名が連名で、田村議長に対し、「貴議会で選択的夫婦別氏制度の実現を求める意見書が採択されないよう“お願い”」する手紙が来たというのです。しかも田村議長はそれに反論してくださっており、心強く感じました。
この手紙は高市早苗議員の事務所の封筒で届いたそうです。
共同通信の2021年2月25日報道によると、47都道府県議会議長のうち、自民党所属の約40人に同様の「お手紙」が送付されたと伝えられています。
私たちは以下2点を問題と考えます。
- 三権分立の中で、国民が国に意見を届ける正当な手続きが地方議会の意見書です。 改姓問題は国民の生活上の困りごとであり、今回の「お手紙」は困りごとの改善を求める国民の声を国会に届けられないよう、国会議員が水面下で地方議会に圧力をかけたに等しく、国民主権の国であってはならないことではないかと感じました。
- また50名の方々の「反対理由」は、一読して偏見と無根拠さに満ちたものではないかと感じました。
そこで、1月29日に共同声明「私たち法学者・法曹は、選択的夫婦別氏制度の早期実現を求めます」を公表された呼びかけ人のお一人で、家族法の研究者である立命館大学法学部・二宮周平教授に解説やご意見をいただくことにしました。
※以下、読みやすいよう会話調に編集してご紹介します。
法学者・二宮周平教授と検証する「反対議員の主張」
反対議員50名の「手紙」は、まずは冒頭から事実に反することが書いてあります。
昨年来、一部の地方議会で、立憲民主党や共産党の議員の働き掛けにより『選択的夫婦別氏制度の実現を求める意見書」の採択が検討されている旨、仄聞しております。
先生におかれましては、貴議会において同様の意見書が採択されることのないよう、格別のご高配を賜りたく、お願い申し上げます。
葛飾区の議員団幹事長の筒井孝尚区議は、同党東京都連から反対されてもなお「実際に改姓で苦しむ区民が目の前にいたから困りごとを取り除いてあげたいと思った」と胸の内を明かした。
ちなみに2019年以降に可決した106件のうち、自民党を含めたすべての会派が賛成した「全会一致」は少なくとも36件。選択的夫婦別姓は人権の話です。当事者の苦痛や不利益に心を寄せ、解決しようと動いて下さった議員さんは、どの党にもいらっしゃることをぜひ知ってください。
さて、「お手紙」の続きに戻り、順を追って二宮先生に解説いただきます。二宮先生、どうぞよろしくお願いします。
反対議員の主張
①戸籍上の「夫婦親子別氏」(ファミリー・ネームの喪失)を認めることによって、家族単位の社会制度の崩壊を招く可能性がある。
現行民法は、家族を単位としていません。1947年12月、改正民法が成立しました。改正民法は、明治民法の家制度を廃止し、家族関係を、夫と妻、親と子、親族相互の権利義務関係としたものです。したがって、家族に関する定義は存在しません。また、嫡出推定・認知、親権、扶養、離婚後の子の監護・監護費用分担、相続権など親子関係に関する規定は、親子が同じ氏を名乗るかどうかと無関係です。
かりに「家族単位の社会制度」があるとすれば、単位である以上、「家族」の範囲は統一されていなければなりません。しかし、法制度の趣旨に対応して、対象となる「家族」の範囲は異なります。
例えば、戸籍は、1組の夫婦と氏を同じくする子を単位として編製しますが(戸籍法6条)、親が離婚などして親と氏を異にする子は、親子であるにもかかわらず、親と同じ戸籍に記載されません。住民基本台帳は、個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成しますが(住民基本台帳法6条)、世帯には、同居の親族や内縁の配偶者なども含まれます。生活保護は、世帯を単位としてその要否及び程度を定めますが(生活保護法10条)、世帯構成員は居住及び生計をともにしている者を指します。児童福祉は、親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護する者を保護者と定め(児童福祉法6条)、保護者の保護が欠けるときに開始します。労働災害の遺族補償年金を受けることができる遺族は、労働者の配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹であって、労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していたものとします(労働者災害補償保険法16条の2)。したがって、家族の範囲について統一した定めはなく、単位として考えることができません。つまり「家族単位の社会制度」は存在しないのです。
私は実親とも実子ともかつて同姓でしたが、今はどちらとも別姓です。親子関係に何ら変わりはありませんし、別姓を選んで具体的に何が「崩壊」したのかが実感できていません…。選択制なので、同姓であることを大事にしたい、同姓でないと何かが「崩壊」すると心配な方々は、同姓を選べば良いだけだと思います。
そうです。かりに「家族単位の社会制度」があるとしても、戸籍以外の諸制度では、氏の同一性は問題にならないのだから、戸籍上の「夫婦親子別氏」を認めても法制度ないし社会制度は揺るぎはなく、したがって、「家族単位の社会制度」が崩壊することなどありえません。また、社会的にみても、夫と妻、親と子の絆は、同じ氏かどうかで左右されるほど脆いものではないでしょう。夫婦別姓を原則とする国(中国、台湾、韓国、カナダのケベック州等)、夫婦別姓を選択できる国で、夫婦関係や親子関係が別姓により崩壊した事実はありません。
反対議員の主張
②これまで民法が守ってきた「子の氏の安定性」が損なわれる可能性がある。
※同氏夫婦の子は出生と同時に氏が決まるが、別氏夫婦の子は「両親が子の氏を取り合って、協議が調わない場合」「出生時に夫婦が別居状態で、協議ができない場合」など、戸籍法第49 条に規定する 14日以内の出生届提出ができないケースが想定される。
※民主党政権時に提出された議員立法案(民主党案・参法第20号)では、「子の氏は、出生時に 父母の協議で決める」「協議が調わない時は、家庭裁判所が定める」「成年の別氏夫婦の子は、 家庭裁判所の許可を得て氏を変更できる」旨が規定されていた。
反対派の方々はよく「子の名付けで揉める」と心配されますが、日本以外に夫婦同姓を義務付けている国はなく、子の名付けで実際に出生届が出せないケースが頻発し、社会問題が起こっている国など寡聞にして存じません。
ここでいう「子の氏の安定性」は、出生時に子の氏が定まることを意味するのであれば、選択的夫婦別氏制度を定めた1996年の民法改正案要綱では、別氏を選択した夫婦は、婚姻の際に、子の氏を定めておくので、出生時に子の氏は定まります。
別氏を選択できる多くの国々では、子の出生時に父母の協議で子の氏を定めますが、協議ができず子の氏が定まらないという問題は生じていません。子どものために合意ができるからです。かりに協議が調わないときには、婚外子の場合と同様に母の氏とするなど、どちらの氏にするか定める規定を設ければ対応できるので、「子の氏の安定性」に反することはありません。
むしろ問題は、親の離婚・再婚によって「子の氏の安定性」が保たれないケースが生じていることではないでしょうか。私の離婚・再婚にあたっては、子どもたちの「自分の名前を変えたくない」という意向を尊重し、私だけが戸籍を抜けて、彼らの名字を維持しましたが、戸籍はバラバラになりました。しかし同じ戸籍に入れる場合は、子も、望まない改姓を強いられるケースが多いですね。
そうです。例えば、結婚改姓した妻が離婚して子の親権者となり子と暮らす場合、子が母と同じ戸籍に記載されるためには、子は母の氏(復氏した婚姻前の氏あるいは婚氏続称を選択した場合は婚氏)に変更しなければなりません。その後、母が再婚して夫の氏を称した場合、子が母と同じ戸籍に記載されるためには、子は、再婚した母の氏に変更しなければならなくなります。子は、それまで称してきた母の氏を名乗ることができないのです。名乗ろうとするときは、母と別戸籍になるしかありません。
夫婦・親子同氏と同氏同戸籍のルールは、初婚が永続することを想定しており、仮に離婚する場合でも、夫婦の氏(96%が夫の氏)=父の氏を称し、父の戸籍に記載され続けることを想定しています。親の離婚を経験する未成年の子は、毎年20万人を超え、婚姻するカップルの26%が再婚である現在、「子の氏の安定性」は、出生時だけではなく、離婚・再婚時にも保障される必要があります。母が夫の氏を称する再婚をした場合に、子は従前の母の氏を名乗るのをあきらめるか、母と同じ戸籍に記載されるのをあきらめるか、どちらかの選択を迫られるのです。こうした選択を強いることは、「子の氏の安定性」、子の福祉に反します。
1994年に日本が批准した国連子どもの権利条約第8条では、法律によって定められた子どもの氏名を干渉されることなく保持する権利が明記されています。しかし残念ながら今の法律では「子の氏の安定性」が守られないケースが頻発しているのが現状です。
反対議員の主張
③ 法改正により、「同氏夫婦」「別氏夫婦」「通称使用夫婦」の3種類の夫婦が出現するこ とから、第三者は神経質にならざるを得ない。
※前年まで同氏だった夫婦が「経過措置」を利用して別氏になっている可能性があり、子が両親どちらの氏を名乗っているかも不明であり、企業や個人からの送付物宛名や冠婚葬祭時などに個別の確認が必要。
年賀状や冠婚葬祭で接する程度の「呼び名さえあやふやな他人」のために、望まない改姓をするべきだというのでしょうか。同調圧力以外の何物でもないと感じました。
郵便物は、夫の氏と妻の氏と複数の表札を掛ければ対応できます。企業や個人からの送付物は、特定された受取人に対してなされるものであり、個人名が不明の人に対してなされるものではありません。また、今でも結婚改姓したり、離婚復氏する例があるのだから、冠婚葬祭時には確認が必要であり、〇〇令夫人、〇〇ご令嬢などどして、個人を特定する書き方をしていない実情こそが(もはや少なくなっているものの)、家族の多様化に即しておらず、社会的に適合していません。個人を特定すればよいだけの話であり、仮に3種類の夫婦が出現しても問題なく対応できます。第三者が神経質になるべきことは、同氏夫婦を前提にした慣行のために、離婚や再婚をする女性が、個別にいちいち氏の変更を説明したり、その理由を詮索されるというプライバシー侵害が生じることに対してです。
仮に第三者のために改姓する・しないを本人の意思で決めてはいけないという主張が真っ当なら、「結婚も離婚も養子縁組も禁止すべき」となりますよね。
反対議員の主張
④夫婦別氏推進論者が「戸籍廃止論」を主張しているが、戸籍制度に立脚する多数の法律 や年金・福祉・保険制度等について、見直しが必要となる。
※例えば、「遺産相続」「配偶者控除」「児童扶養手当(母子家庭)」「特別児童扶養手当(障害児童)」「母子寡婦福祉資金貸付(母子・寡婦)」の手続にも、公証力が明確である戸籍抄本・勝本が活用されている。
私たちは別姓で「戸籍上の」家族になることを求めています。この2年半で「戸籍廃止を主張する別氏推進論者」が議員陳情しているのを見たことありません。どの団体も「選択制」推進ですし、戸籍廃止を軸にした選択的夫婦別姓法案・マニフェストを出している党も皆無です。
選択的夫婦別氏制度は、婚姻制度を前提としています。したがって、婚姻関係や婚姻法上の権利義務を確認するために、法律上の夫婦であることを登録し公証する制度が不可欠です。
近代的諸国は、すべて家族関係の登録・公証制度を設けています。欧米及びその旧植民地国では、個人別の出生証明書、婚姻証明書などの証明書制度、中国では出生時の戸籍と結婚登記、韓国では個人別の家族関係登録簿、台湾と日本では戸籍です。選択的夫婦別氏制度を支持する人は、婚姻制度も、婚姻を登録し公証する戸籍制度も否定していません。また、「夫婦別姓推進論者」という表現も正確ではありません。「選択的夫婦別姓の推進論」です。国会議員等公の議論をする立場にある者は、誤解を与えるような表現をすべきではありません。
そうですね。戸籍の同氏同戸籍の規定を神聖視し、まるで不可侵であるかのように表現する反対派の方も多いのですが、もともと戸籍は夫婦別氏で運用されていました。それが1898年の家制度で「家」の構成員が同じ名字に統一することが規定され、1947年の民法改正でまた変わった。「夫婦としての独自の氏を定めるという制度になったのは戦後から」と、1996年の答申で幹事を務めた小池信行先生もおっしゃっています。夫婦同姓の義務付けが国民の実情に合わなくなっている今、一部の規定すら改めてはいけない理由になりません。
はい。現行の戸籍は、1組の夫婦と氏を同じくする子を単位として編製するため、選択的夫婦別氏制度を導入する場合には、編製の原理を修正する必要があります。1996年の民法改正案要綱時には、1つの戸籍に、別氏の夫、妻、子が記載される別氏同戸籍が検討されていました(台湾やかつての韓国の戸籍は夫婦別氏、同戸籍である)。編製の方式として、2008年法改正をした韓国のように個人単位とすることも可能であり、その方式の合理性、妥当性について検討する必要性はあるものの、公証制度自体を否定するものではありません。
反対議員の主張
⑤既に殆どの専門資格(士業・師業)で婚姻前の氏の通称使用や資格証明書への併記が認められており、マイナンバーカード、パスポート、免許証、住民票、印鑑証明についても戸籍名と婚姻前の氏の併記が認められている。
選択的夫婦別氏制度の導入は、家族の在り方に深く関わり、『戸籍法』『民法』の改正を要し、子への影響を心配する国民が多い。 国民の意見が分かれる現状では、「夫婦親子同氏の戸籍制度を堅持」しつつ、「婚姻前の氏の通称使用を周知・拡大」していくことが現実的だと考える。
※参考:2017年内閣府世論調査(最新) 夫婦の名字が違うと、「子供にとって好ましくない影響があると思う」=62.6%
「旧姓を使いたい」というニーズの人は、改姓を前提にしています。選択制の希望者はそもそも「法的氏名を変えない」選択肢を求めているのですが…。
氏は名と組み合わせて、個人を特定し、他人と識別する呼称です。その氏が複数あることは、個人の特定識別機能を著しく減殺します。したがって、近代的な諸国では、複数の氏を持つことを認めていません。芸名、ペンネームは自己の芸術・芸能・執筆等の活動に限定されて使用されるもので、一種の自己表現、つまり表現の自由の問題であり、個人の特定識別のためのものではありません。
反対議員は「望まなくても改姓をして、個人の特定識別のために二重三重の氏名を使えばいいじゃないか」と主張しているに等しく、法的なIDとしての機能に混乱が起こっている現状を無視していると思います。
日本では、1870年9月19日太政官布告608号により、平民も苗字を名乗ってよいとされました。この布告を建議した細川潤次郞は、「元来、人の姓名といふものは、自他の区別を相立てて、相乱れざる様にするものであって見れば、……姓氏を其の名前の上に加えて、一層之が区別を容易ならしむるやうにせねばならぬ」(増本登志子・久武綾子・井戸田博史『氏と家族』(大蔵省印刷局、1999)9頁〔井戸田〕)と述べていたのです。1872年5月7日太政官布告149号は、通称実名など複数名を用いていた者に対し、複数名を禁止し、いずれか1つ選択することを命じる、一人一名主義を採用しました。同年8月24日太政官布告235号は、いったん苗字を名乗った以上、苗字を変えてはいけないとする、苗字不変更の原則を示した。1875年2月13日太政官布告22号は、国民すべてに苗字を名乗ることを強制し、祖先以来の苗字がわからない者は新たに苗字をつけることを義務づけた。一人一名、不変更の原則の下に、国民すべてが苗字を名乗ることになったのです。
こうした明治期以降の氏の沿革からは、個人が2つの氏を持つことは、個人の特定識別機能を害するものとして禁じられていたことがわかります。したがって、戸籍姓と通称を使い分ける通称使用の制度化は、氏の基本的機能、基本的原理に反するものです。
私たちの募った当事者の意見でも、国が募ったパブリックコメントでも、仕方なしに姓を変えざるを得ず、旧姓の通称使用でトラブルに見舞われたり、職場など周囲にも混乱を引き起こす例は枚挙に暇がありません。
通称使用には限界があり(税、社会保険、口座、法人登記、パスポート等は戸籍姓)、社会生活上の不利益をすべて解消することができませんが、仮に、あらゆる生活領域で通称が使用できるとすると、今度は逆に個人が通称と戸籍姓を任意に使い分ける事態を防ぐことができず、個人の特定識別という氏の基本的機能を侵害する結果となります。
また、戸籍上の氏と婚姻前の氏を併記する制度は、特殊日本的なもので、各国の理解を得ることができません。のみならず、その人が婚姻し相手方の氏を名乗っていることを、本人の意思に関わらず、明示するものであり、個人のプライバシーを侵害します。通称はもちろん、併記では、口座やクレジットカードは作成されず、また、海外では通用しないので、社会生活にとってほとんど有用性がありません。有用性のない制度を持ち出して選択的夫婦別氏制度を否定し、夫婦同氏強制制度を維持することは、ごまかしに近いと思います。
実際に2001年の段階で、内閣府の男女共同参画会議基本問題専門調査会では「通称使用を広めることは、選択的夫婦別氏制の導入に向けての動きをなし崩しにするものであり、ごまかしであるとの批判を免れない」という意見が出ていました。通称使用はコストをかけて混乱を引き起こすことにも触れています。
今回の「手紙」は「選択的夫婦別氏制度の導入は、家族の在り方に深く関わり、『戸籍法』『民法』の改正を要し、子への影響を心配する国民が多い。 国民の意見が分かれる現状では、」と記述していますが、今まさに、日本社会は家族の多様化、国際化に直面しています。家族の在り方として、夫婦・親子が同じ氏(夫・父の氏)を名乗って一体となることを前提とする考え方は、こうした現実を直視しないものであり、明治民法の家制度と家父長制、高度経済成長時期の「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業を固持するものです。むしろ民法、戸籍法を柔軟な仕組みに変えていくことこそ、求められています。
国の世論調査やさまざまな意識調査でも選択制に賛同する意見が、強制的夫婦同姓を維持すべきという意見を大きく上回っています。
国民の意見は、2017年11~12月の内閣府の世論調査では、法改正に賛成42,5 %、反対29,3%、60歳未満全体では、賛成50.0%、反対16.8%であり、早稲田大学法学部・棚村政行研究室と選択的夫婦別姓・全国陳情アクションによる47都道府県「選択的夫婦別姓」意識調査(2020年10月、全国7000名、通称使用という回答枠をもうけない調査)によれば、夫婦同姓・別姓選択制に賛成70.6%、反対14.4%です。国民の意見の大勢は選択制支持であり、分かれていません。それでも「分かれる」と評価することは、客観的事実に基づかない、恣意的なものです。
「子への影響を心配する国民が多い」とありますが、強制的夫婦同姓の国で、同姓を当たり前として育った人が持つ“法改正後の懸念”は、「実際にこういった問題が起こる」という根拠にはなっていませんね。これを主張するなら、「両親が生まれ持った氏名で子育てしたことにより、子どもに悪影響があった国の社会問題」を示す調査結果を出すべきです。
2017年内閣府の世論調査において、夫婦の苗字が違うと、「子供にとって好ましくない影響があると思う」62.6%を指摘して、「子への影響を心配する国民が多い」としていますが、これも正確ではありません。他の設問項目と関連させると、次のような分析ができます。
2017年世論調査
夫婦の名字(姓)が違うと、夫婦の間の子どもに何か影響が出てくると思うか
①「別姓でも家族の一体感に影響はない」とする回答者では、「子供にとって好ましくない影響があると思う」は52.6%、「影響しないと思う」43.0%、「一体感が弱まる」とする回答者では、影響あり85.5%、影響なし12.7%でした。②「選択的夫婦別氏制度に法律を改めてよい」とする回答者では、影響あり57.9%、影響なし38.6%、「今の法律を改める必要はない」とする回答者では、影響あり68.4%、影響なし25.1%でした。どの層でも、子どもへの影響を心配する回答が多いものの、①氏と家族の一体感、②法改正への賛否によって、影響への評価が異なっています。国民すべてが同じような比率で心配しているわけではありません。
同調査の別の設問で、「夫婦・親子の名字(姓)が違うと、夫婦を中心とする家族の一体感(きずな)に何か影響が出てくると思うか」聞いた項目では、「家族の一体感(きずな)が弱まると思う」と答えた人はわずか31.5%。「家族の一体感(きずな)には影響がないと思う」と答えた人が64.3%と、2倍以上上回っています。
夫婦・親子の名字(姓)が違うと、夫婦を中心とする家族の一体感(きずな)に何か影響が出てくると思うか
確かに子への影響を危惧する回答が多いのですが、それは、少数派が生きにくい日本社会の大勢順応主義になじんだ大人の杞憂からです。夫婦別姓の事実婚で育った子どもたちは、親の夫婦別姓を自然のこととして受け入れており、なぜ「子どもがかわいそう」と言うのかわからない、いじめられたことなどない、と答えています。
2020年6月に別姓家庭の子どもたち6人の座談会を開いたのですが、まさにおっしゃるとおりの意見でした。TBSニュースでも放映されました。
いつの世でも、親がていねいに自分の生き方を子どもに伝え、教えていけば、よほど理不尽なことでない限り、子どもは納得します。親が生き生きと暮らし、愛情をもって子どもに接することが、子どもの自己肯定感につながります。また、少数派であるがゆえに、両親の離婚で名字の変わった友だち、母親が外国人で名字が違う子に関して、「変なことを言ったりしなかった」、「別に不思議じゃなかった」と答えています(かもがわブックレット98『民法改正 そこが知りたい~選択別姓と子どもの平等を』(かもがわ出版、1996)35頁)。大人はこうした子どもたちの柔軟な感受性、異なる存在への受容性を信頼すべきであり、実態を直視しない杞憂で評価したり、多様性への包容力に欠ける自らの姿勢を子どもたちに投影してはなりません。
上記のように根拠のない懸念や、「別姓家庭で育つ子はいじめられる。かわいそう」を法改正反対の理由に使う人もいます。彼らには、事実婚の研究者であるメンバーが子育てした上で感じた記事を読んでいただきたいです。彼はこう書いています。「〝かわいそう〟とは、自身の差別感情を当事者の責に転嫁しておきながら、哀れな存在に憐憫を垂れる優しい自分を演出しているだけです。それは卑劣ではないのでしょうか。いじめられるのがかわいそう、と思うなら、いじめる方を糾弾するのが正しい態度ではないでしょうか?」
二宮先生、ありがとうございました!
公開質問状の内容
以上を踏まえて、私たちは公開質問状を50名の反対議員全員にお送りしたいと考えております。
今回の「お手紙」に名を連ねた経緯についてお聞かせください。
国民主権の国で、国民が国会に意見を届けるための制度が地方議会での意見書です。今回の「お手紙」は、「国会議員が生活上の困りごとを抱えた当事者の意見を国会に届けさせないようにする圧力ではないか」という意見について、先生はどのようにお考えですか。
選択的夫婦別姓制度に反対ですか?
反対であれば、それはなぜですか。お手数ですが、今回の「お手紙」に至った発端(埼玉県議会への相談)を作った当事者である井田奈穂の意見、法学者・二宮周平教授の解説を踏まえた上でご回答ください。
反対の根拠とされている「ファミリー・ネーム」の法的定義について、立法府の議員としてお教えください。
第5次男女共同参画基本計画に対するパブリックコメントに400件以上、切実に法改正を望む声が寄せられました。旧姓使用の限界やトラブル事例も多く報告されています。「旧姓使用ではなく生まれ持った氏名で生きたい」と訴える当事者が目の前にいたら、どのように回答されますか?
「お互いの氏名を尊重しあって結婚したいが、今後も法的保障のない事実婚を選ぶしかないのですか?」と訴えるカップルが目の前にいたら、どのように回答されますか?
夫婦別姓を選べない民法の規定について、国連女性差別撤廃委員会から再三改善勧告を受けていることについて、どのように対応すべきとお考えですか?
旧姓使用に関して、法的根拠のない氏名を、今後あらゆる法的行為、海外渡航、海外送金、登記、投資、保険、納税、各種資格、特許などにおいても使えるようにしていくべきと思いますか?
以下は、旧姓使用をされている議員の方にお伺いします。なぜ旧姓使用をしておられるのですか?
「3種類の夫婦の出現に第三者は神経質にならざるを得ない」と主張する先生が、自ら旧姓を通称使用をし、社会的に生来姓を名乗っておられるのは甚だしい自己矛盾ではないかという意見があります。そのお考えであれば、生来姓を変えないのが一番ではないでしょうか?
お忙しいところ恐縮ですが、2021年3月8日正午までに、個別にお送りしたWebフォームへの記載、またはメールにてご回答をお願いします。3月9日に記者発表の予定です。
ご返信の内容は選択的夫婦別姓・全国陳情アクションのサイト、SNS、記者発表会にて公開させていただきます。